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その7
剣崎
「叔父貴、到着したようです」
「おお、そうか。さあ、出迎えだ。はは…」
まったく、屋敷の玄関から出ていくその後ろ姿、まるで子供だ(笑)
「ははは…、よう、倉橋、それに麻衣。よく来たなあ…。待ってたわ。はは、おお、倉橋はナマズ様、初めてだったな。拝んどけ、ええことあるから」
俺は倉橋に目で合図した
”ある訳ねーよ、そんなどぶ魚にお世辞切ってもよう”
サングラス姿の倉橋も、いきなり表情を崩して苦笑いだ
...
「今日は港で花火大会だからな、庭でバーベキューとしゃれたわ。ほれ、見てみろ、麻衣。あがったぞ、あっちだ」
「あー、ホントだ。きれいだなー」
鉄串で刺したでっかいソーセージを片手に、麻衣ははしゃいでるよ
「倉橋、冗談抜きで、この西路行脚では痩せたんじゃねえか?」
「まあ、ちょっと軽くなったですわ。やっぱり」
「なら、きょうはたらふく食えよ。もう、ここは身内だ。気兼ねはねえだろ」
「いやあ、まあ…」
まったく、こいつ…、ちっとも喰わねえでビールばっか飲んでら(苦笑)
でも、叔父貴と談笑してる麻衣の後ろ姿に目をやる倉橋は、とてもいい顔してるよ
...
「あっはっは…、剣崎よ、今回の西詣では大成功だったぞ。淀のじいさんも五島もよう、この麻衣には肝ぬかしてたわい。なあ、倉橋、お前には長年苦労させたが、こんないい娘に巡り合えてよかったなあ…」
倉橋は相変わらず照れて、汗ダラダラだよ
ははっ…、すかさず隣の麻衣がハンカチ当ててるわ
それを叔父貴が大笑いで見てる
この人、今日は嬉しくて仕方ない様子だ
...
「まあ、二人とも、今日はぐっすり休め。明日は昼過ぎに出ようや」
「おじさん、だ埼玉にご一緒いただけるんですか?」
「ああ、西詣での帰路、東海のじじいを拾って連れたってことで収めとけや。まあ、すぐ東京に向かうがな」
「…」
「おい、剣崎も倉橋も麻衣の前だからって、そんな体裁いらんだろ。なあ、麻衣、建田が戻るのも早まりそうだ。今から、マメに鉄格子越しに愛想振りまいてるからよう、お前は何も心配すんな」
「おじさんは素敵ですね。パワフルで、柔軟で。いろいろ教えて下さいね、これからも…」
「…」
思わず3人は口をあんぐりさせたわ
...
宴は午後11時前まで続いた
花火はとっくに終わってる
俺と倉橋はもう退散したいと顔に出ていたが、そんなのお構いなしに、叔父貴と麻衣は盛り上がっていたよ
「麻衣、遠慮なく言ってみろ。星流会、ぶっ潰す気あるか?」
「あります!」
「よっしゃ。おい、お前ら、この際だ。星の字潰すか!」
叔父貴、酒の量はハンパないが、決して酔ってはいない
「叔父貴、まあ、そう言うことは慎重にいきましょうや」
「剣崎よう…、慎重もいいが、もう、あんなヤロウども目ざわりだって。相馬の兄貴は面白がって生かしてきたが、俺から言わせりゃ、さっさ消すべきだった。諸星はやっぱりクソだ。俺の言ってる意味、分かるだろ、お前ら!」
俺は麻衣に視線を送った
麻衣はすぐに察して叔父貴にこう言ったよ
「おじさん、私、先月あの人に”100万ドル”積まれて誘われました。そりゃあ、ヨダレ出たけど、断りました。理由を聞かれて、私はこう答えたんです。欲望の階段を登る人生なんか送る気はないと…」
「…麻衣よう、あんなダボにそういう高尚な日本語など、通じんぞ。ハハハ…」
「そうですね…、それは言えてますね…」
麻衣はニヤリと笑ってたわ
この瞬間俺は確信した
叔父貴と麻衣の共通認識はがっちり組み合ったと…
うん…、これは今後の展開を踏まえると大きいぞ!
ー完ー
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