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その3
麻衣
「へー…。じゃあ、ちょうどこの辺りですね?倉橋さんが馬乗りになって殴り続けたのは…」
「うん…。ああ、そこんとこの滲み、そん時の血だよ」
勝田さんは咥えていたタバコを掴んで、そこ、指してた…
数年前にここヒールズで起きた、凄惨な愚連隊二人へのリンチ…
今の都県境じゃあ、ガキ連中の間で伝説になってる事件で、あの砂ちゃんや南部兄も居合わせていたらしいよ
その暴行をここで指揮してたのが撲殺人さんってことなんだけど、実際に暴行を実行したのも倉橋さんなんだそうだ
たぶん、率先して…
何でもそん時、殴りつけていた相手の鮮血を顔に浴び、舌でぺろりとやってたとか
凄いわ…
でもね~
あの人にそう言えば、返ってくる言葉ははっきりしてる
”タダの仕事さ…”
全く、なんてまじめな人なのよ、優輔ちゃんは(笑)
...
「いつか見てみたいな…。倉橋さんの撲殺人ぶり…。できれば、ヒールズでやったみたいな馬乗りバージョンを」
「そんなもん、十代の女の子が見るもんじゃない。女子高校生が口にしちゃダメだよ、そういうことを…(苦笑)」
「わあ…、お父さんみたいだ、倉橋さん」
「お父さんはちょっとだろ、麻衣ちゃん。せめてお兄さんかいとこくらいにしてくれよ、はは…」
「でもさ…、アツシん時は私も立ち会いますからね。約束ですもんね。もしかしたらそん時、馬乗りバージョン見れるか…」
この時、私はあえてそうけしかけてみた…
したら…
「…約束はヤツを一緒に追い込もうってことだろ?処分の場を見せると確約した覚えはないぞ。…はは、それはダメだよ麻衣ちゃん。あきらめてくれな」
「ケチ!」
「ハハハ…」
しかし、結局アツシの暴行&指キリ現場には立会うことになる…
倉橋さんの婚約者という立場で…
...
「…奥さん、あなたは立派です。ウチの若いモンはみんなその仕事ぶりに感服してますよ。倉橋親分の奥さんになる人の立場で、汚れ仕事まで率先してって…」
そう…、”その時”はアツシの流した血とかをモップで掃除したんだよね
倉橋さんはそんなこと、他の人間にやらせればいいって言ってくれたけど…
私にとっては彼との共同作業の延長なのよ
そういう感覚なんだ
汚れた仕事も何も、私は愛しき撲殺人と一緒に仕事するの、とても好きなのよ
真面目にひたむきに、手抜きなしで…
私はそんな優輔さんにぞっこんなんだもん!
ー完ー
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