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その4
剣崎
麻衣は西の御大に対しても、実にヤツらしく接していた
静岡の叔父貴からの下話が効いていたようで、のっけから御大は麻衣を興味深く、まあ観察していたな
料亭で1時間程度の会食だったが、麻衣はここでも、見事に"外交特使"
としての役目を果たしていたよ
倉橋と麻衣が先に離席したあと、御大からは故相馬会長が麻衣を見染めた成り行きを尋ねられた
俺は支障のない範疇で、御大に”あの日”の二人について告げた
...
明石田の叔父貴はあえて、麻衣と会う前には”あの日”の件は話さなかったからな
麻衣を実際に目にしてから、俺が相馬さんと麻衣のあのやり取りを話した方が効果的だとの考えからだ
御大は唸っていた
この長老に覚えを利かせられれば、麻衣は俺たちにとっては、今後、さらに大きな武器となる
だが、ここまで来ると、その武器へ注がれる外部の目にも神経を尖らせないとなるまい
...
「倉橋、麻衣にはもう”付けて”るのか?」
「ミカを先週から…。今のところ、怪しい影は見当たらないと言ってます」
「そうか。で、麻衣は気づいているのか?」
「ええ、おそらくは…」
「倉橋、こういう言い方は避けたいんだが、麻衣はお前のカミさんになる立場を超えた大事な存在になってる。もはやな。あいつの周辺には十分、気を配ってくれ」
「承知しました」
大阪に向かう朝、麻衣がトイレで外している間、数分の会話だった
...
「じゃあ、俺は一足先に叔父貴んとこに戻ってる。ああ、これは我々二人からの、”旅費”だ。足しにしてくれ」
俺が右手で差し出した封筒には10万入っていた
ちょうど右手は二人の間に佇んだ
”コイツ”をこの二人、どっちが受け取るか、正直試したんだが…
「剣崎さん、この人、私の前では受け取りません。私も両手塞がってます。ですので、彼のポケットに突っ込んじゃってください。お気遣い感謝します、剣崎さん…」
俺も倉橋も、麻衣の言う通りに従ったわ(笑)
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