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その5
麻衣
ついに、”ここ”に来れた…
その古びた物置小屋は、大阪府内中心部の路地裏に佇んでいた
「麻衣、あそこの窓際へ行ってみよう」
私は優輔さんの後ろに着いて、雑草だらけの敷地内に入って行った
その窓ガラスは割れていて、ここから中が見える
「覗いてみろや。ああ、足元に気をつけろな」
そう言いながら、優輔さんは窓付近のクモの巣を払ってくれてる
「うん…」
私は足元を確認したあと、背伸びをして物置の中を覗き込んだ
...
古い物置小屋と言っても、基礎はしっかりしていて割と広い
建物内はうす暗いが、中の様子ははっきり見渡せた
「あの日、ふん捕まった俺は、あそこの柱に縛り付けられてたんだ。相手は最初5人いたかな…。ハハハ…、俺はその時すでに、敵二人を半殺しの目に遭わせていたから、まあ、ここでは間違いなく殺されると思ってた。その覚悟もしてたしな」
「…」
私は建物内のその柱に目を向けながら、彼からの”あの日”のことを聞いていた
「…その後、入れ替わりが何回かあって、最後は記憶が飛んだ。気づいたら剣崎さんが目の前で、俺を抱きかかえてくれてた…」
あの日、この人はここで5時間にわたるリンチを耐えたんだ…
殴る蹴るの暴行を受けた末、右の首筋あたりに焼きゴテを当てられて
今、私の目に映ってるこの場所、しっかり焼き付けよう…
...
そして、この場所に来たからには、以前、剣崎さんが教えてくれたことだが、優輔さんからも聞いとかなくちゃ
それは、今や伝説と化したウソのような顛末だった
関西系列の敵数人は、意識がもうろうになりながらも、鋭い獣のような眼光を放つ優輔さんを目の当たりにしていたのだが…。
突然、一人が叫び声をあげた
”ワーッ!相和会はみんな、キ○ガイだー!”って
そいつはそのまま、ここから走って出て行ったらしい
「…思い出せるのは、そこまではなんだ。不思議と最初に出て行った男の後ろ姿ははっきり覚えてるんだが、そこでぷっつり記憶が途切れてさ…」
優輔さんは建物内にじっと目をやりながら、あの日を回想してくれた
その後、剣崎さんから聞いたところでは、一人出て行くと優輔さんをそのまま残して、全員が逃げ出すように去って行ったということだ
この経緯は、抗争終結後、敵側から剣崎さんが直接聞いた話だという
相和会には、敵側から倉橋優輔の居場所が告げられて、剣崎さんらが駆け付けたという訳なんだが…
この一件で、”撲殺男”倉橋優輔の名は関西一帯に轟いた
それ以降、この業界では、相馬豹一の狂気を持つイカレ者として怖れられたという
...
「やっぱりここへ来てよかった。あなたをなぜ好きになったのか、わかった気がするし…。ねえ、写真撮りましょう。あそこの塀から自動シャッターなら、何とか収まるわよ」
彼はそんなのいいよって顔してたけど、強引にね…
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