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「ただいま」
誰もいないけど、ぼそっと呟く。帰宅途中、何度も涙がこぼれていった。ぬぐってもぬぐっても、こぼれていった。初夏なのに、おかげですっかり頬が冷たくなっている。
見渡せば、昼間がそのまま置いてきぼり。掃除途中の汚い我が家がある。マユミの服をタンスから取り出していると、カタン、と書斎から音がした。
――もしかして!
ふと思い出し、急ぎ足になる。散らかっている床をなんとか乗り越え、あの箱にたどり着いた。
『時間を巻き戻す権利が与えられます。』
埃を丁寧に拭き取る余裕など微塵もない。
――“巻き戻す”、あのときヒロはマイクを使っていないはずだ。
『戻りたい時間をお決めになりましたらマイクに向かって呟いてください。』
――もしこれが本当なら、
本当なら。
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