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アスカに言われてよくよく商品を見ると胡散臭い名前だった。
「『幸せをあなたに。お好みの時間に巻き戻します』? マイクだよね、これ」
「そう思ったんだけど」
――ピコン
アスカのスマホに一通のメッセージが届いた。
「出品者からだ、ちょっと開くぞ」
『平井アスカ様
この度は私の商品をご購入いただきありがとうございます。つきましては商品の説明をさせていただきます。』
ドキッとした。スクロールしようと思ったらもう、アスカが肩越しに覗いていた。
「こんなメッセージがすぐくるんだね」
「悪い、名前適当に入れた」
「いいよ、どうせすぐ解約するし」
特に気に留めていなかったようだ。よかった。
メッセージについている商品説明動画を起動すると、宇宙のような映像と、女性の音声が流れた。
『今回平井様にご購入いただいたのは、世にも珍しい”時間の巻き戻しβ版”です。』
「なに、モニターってこと?」
アスカの胸が背中に当たる。ほっそりしている身体にもやはり柔らかな感触が感じられ、心臓が飛び跳ねた。
『このβ版は本来ならば無料でお渡しするものなのですが、ある程度の篩い分けのためにオークションへ出品致しました。』
「篩い分け」
思わずオウム返しをした。
『今回はご名義の方に限り、時間を巻き戻す権利が与えられます。戻りたい時間をお決めになりましたらマイクに向かって呟いてください。』
ブチッと音声が途切れ、画面はもとの待ち受け画面に戻った。
「ちょっと、私のスマホ、この人に乗っ取られたりしないよね?」
「たぶん……」
「いやいや、ちょっと貸して」
握っていたアスカのスマホを取り上げられるも、スマホは至って正常だった。
「マジでごめんアスカ」
「うーん、まあ仕方ないか」
「住所も俺のだし、アスカはメアドだけだから安心して」
な? と念を押す。少し不安そうなアスカは抱きしめたいくらい可愛い。
「何かあったら飛んでくるから」
「よろしくね」
じゃあまた、そう言って自分の部屋に戻っていった。
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