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「ご家族の方ですか」
「はい、そうです。あの、」
「では手前5番のお部屋にお入りください。医師からご説明があります」
受付の説明を聞くのも半分に、足は診療室に向かっていた。
『平井さん大変! マユミちゃんが――』
“事故に巻き込まれた”
先に電話をくれたのはマンションの管理人さんだった。たまたま公園の見える庭先で掃除をしていたとき、大きな衝撃音を聞いたという。
『見覚えのある洋服だったから、もしかしてと思って』
すぐさま救急車が呼ばれ、私が公園に着いたとき、ヒロはどこにもいなかった。
マユミは放心状態で、一緒に救急車に乗り込んでも状況がよくわかっていないようだった。
――はやくヒロの姿を確かめたい。
「娘さんは腕と脚に軽い擦り傷がありますが、軽症です」
「あの、痕は残りますか?」
ぎゅっとハンカチを握りしめる。
よくあるドラマのようだと俯瞰的な自分、
マユミとヒロは本当に事故に遭ったのだろうかというふわついた気持ち、
終いには、
ああ、このハンカチは付き合って1年目のときにヒロにもらったやつだ
と、見当違いなことを思い出している自分が混ざり合い、不思議な感覚が身体に纏わり付いている。
「ご安心ください、大丈夫です。ただ念のため今日は入院を。旦那様は――」
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