day1

1/2
前へ
/12ページ
次へ

day1

『頼むよう、アスカしかいないんだよお』 「面倒くさい」 『俺が手取り足取り教えるからさあ』  もうすぐ寝ようとしていたところだったのに、私は咄嗟(とっさ)に電話をとってしまったことを後悔している。 『1回だけ、1回だけでいいんだよお』  情けない声の主はヒロ。同じアパートに住むそこそこ仲の良い信用(、、)できる友人だ。そして私はまるで一晩くれと言われているようなふざけた言い方に嫌気がさしていた。 「なんで私がヒロのためにスマホの容量を減らさなきゃいけないのよ」  実際のところはオークションアプリの『友人紹介で10万ポイント還元キャンペーン』のために、どうにか登録してくれと頼まれているだけだ。 「ヒロが変わりにやってくれるっていうならまあ考えてあげても、」 『わかった!今そっち行くから!じゃ!』 「へ?」 ――コンコン  アパートのドアがノックされた。 「やっほー」 「ほんとに来たよ……」  1つ下の階に住んでいるヒロとはたまに部屋を行き来する。きっかけは、あまり思い出せないけれど。  ヒロは妙に私を気に入っていて、ことあるごとにうちへくる。初めは自分に気があるのかと思い警戒したが、どうやらそうでもないらしい。  結局、何度もチャイムを鳴らされるのも近所迷惑なので、ヒロだけはノックしてもらうことにしたのだ。 「じゃあはい、どうぞ」 「あざーす!」  ぽいっとスマホを渡し、ヒロはルンルンで手続きを始める。 「できた?」  しばらくして声をかけると、少し気まずそうな顔をしているヒロが見えた。 「あのさ、アスカ、ちょっと言いづらいんだけども」 「なに?」 「その、ポイントもらうにはオークションに参加しないといけないんだ、それで、これ」  黙って画面をこちらへ向ける。 「ごめん!」  頭を下げてヒロは謝った。 「まさかこんな金額で落とすと思ってなかったんだ」  確認すると”300円”だった。 「なんだ、そんなもんか。ん?」 「もちろん俺が払うよ、もちろん」 「ねえ、何買ったの、これ」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加