魔王×村人(罠師)

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魔王×村人(罠師)

帝国暦563年 7月 勇者を筆頭とする強者集団が魔王を討滅した。 彼らは人類で最高ランクと言われ、Lv87の勇者を筆頭に70後半から80前半のメンバーで組まれていた。 しかも無駄に美形が多かった。 俺が住んでいたのは、魔王城に最も近いとされる村の一つ。 職は…村人? 転職するなら罠師…だと思われる。 ギルドに加入していない者は、他者にLvを示すモノが無い。 魔物の多い地域で、魔物は子供の頃からよく目にしてきた。 でもこの村は比較的安全だったと思う。 俺が村の外の荒野に、ありとあらゆる種類の罠を仕掛けていたから。 村人は危険だから荒野の方には行かなかったし。 子供の頃から俺は荒野で遊んでいた。 罠を作って、短剣片手に。 罠にハマって動けなくなった魔物や、瀕死になった魔物を殺していた。 当時六歳の俺がこんな事をしていた…かなり異常な子供だったと思うが、気にしない。 そんな事をしてたこら魔物の弱点には詳しいし、魔物自体は魔王の手先ではなく、簡単に言えば魔力で暴走した、動物に似たものだと言う事も知っている。 奴らは餌のために狩猟しているだけで、魔王の指示で人間を襲ってたワケじゃない。 この時点で人間は間違ってる、と分かった。 だから表向きは村人達と一緒に勇者の帰還を祝ったが、内心では無関心だ。 つか人類最高ランク? アホ言え、俺のLvは94だ。 伊達に十五年間、魔力の濃い所で生息しているモンスターを倒して倒して倒し続けてんだ。 日常生活に問題が出そうなくらい力が強くなって、隠すのに苦労してんだよ。 Lv100が上限って言われてるけど、あと五年も有れば……全力で狩りをすれば三年でいける。 勇者は色々な事を村人に語った。 その中には、魔王討伐直後に聖剣が消えたと言う話なんかもあった。 つまり聖剣に選ばれていた勇者は、聖剣が消えた事でお役御免になったと言う事な。 しかし、魔王を討っても魔物被害は止まないだろう。 分かってんの? 魔物は魔王が生み出すのではなく、自然発生するんだよ。 アレ、キモい。 何も無い所に周囲から、何か魔力みたいなのが集まって、急に肉塊が現れる。 そこから、ゴボッ ボゴッ ゴギッ バギャッ グジャッ と諸々の言葉で表現するのが難しいような、不快な音を立てて形を成していく。 キモい。めっちゃ。 初めて見たとき二日程肉が食えなかった。 そんな光景を知っているから、村人達や勇者達が『もう何も心配しなくていい』って顔で喜んでるのに、冷めた目を向けてた。 四年後。 帝国暦567年 9月 二十五歳になった俺は、本当にLv100になってた。 でも何故か、未だに魔物を倒した分の経験値が溜まっていっている。 つまり、より上がある。 村仕事をして、夜に罠を見て回って、ハマっている魔物を殺して、ついでに道中に居た魔物を斬り伏せ、新しい罠を仕掛けていく。 そんな生活をしていた。 まぁ、昔とあんまり変わってない生活だ、 そんな中のある日、五日の休日をもらった俺は、何の気無しに魔王城観光に行くことにした。 今や魔王幹部もなく、野生の魔物の寝床だと思う。 道中にはやはり魔物が多く、足を向ける人間はあまり居ない……あまりと言うか最早皆無。 Lv100の俺は体力もアホみたいにあるし、本気を出せばメチャクチャ速い。 だからサラッと帰ってくる為に、魔物を斬り伏せながら走って一日で魔王城に着いた。 歩きだと丸四日らしいが、知らん。 少し乱れた息を整えながら魔王城を見上げた。 至る所が崩れたりしているが、その外観は拍手ものだ。 魔力を多く含み、紫色に染まった葉や幹の木々に囲まれ、山の斜面に建てられた白は自然の要塞をもつ、迎撃戦に向いていそうな城だった。 機能性もさることながら、残っている外装を見るとかなり美しい。 匠工の技が詰まっている。 華美になりすぎてはいないが、人の目を惹きつける。 勇者が乗り込む前に見たかったな。 俺は壊れた門から中に入る。 建物内も壊れてて、人が通った痕はない。 少なくとも三年は前か。 罠師みたいなものだから、観察力はあると自負している。 観察力がないと罠仕掛ける場所すら見つけられない。 俺は部屋なんかも確認しながら城の中を進んだ。 そして約一時間後。 「ーーーー」 俺は息を呑んだ。 その場所は半壊していたけれど、雲の切れ間から地上に差す陽光が照らしていて神々しく見えた。 上部の無くなった玉座らしきもの。 砂埃を被った赤い絨毯が、入り口から玉座まで敷かれた大理石の床。 首をほぼ真上に向けて見上げるほど高い天井 には、消えかかった絵が描かれている。 ここの破損は他より酷いから、きっとココが謁見の間とか言う、勇者が最終決戦をしたとか言っていた場所なのだろうが……。 何よりも強く惹かれた。 今までの人生で。 二十五年の中、色々なモノに惹かれてきた。 一番は罠の道具。 アレはもう趣味だった。 でもコレは、それらとは違う。 本能とか魂とか、あんまり分かんねーけど、そう言う根本的なトコが惹かれている。 俺の足は玉座に近づく。 後五m程で玉座…と言う所で、空気が脈動した。 空気の振動で肌が粟立つ。 何故か涙が出てきた。 空気中の魔力が一点に集中し始める。 俺の中の魔力も、俺の意思に関係なくそちらへ行こうとする。 その魔力を俺は止めなかった。 ゴッソリと魔力が体から出ていき、疲労感と脱力感に膝をついた。 それでも俺は、玉座を見据えた。
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