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魔王×半神
周囲の全てが白銀で覆われた土地、“封印の凍土”
太鼓の昔から変わる事なく在る姿が、封印されている様…との事でそう呼ばれている。
気温は最高でもー300度で、それ以上温かくなる事はほぼ無い。
魔法で保温しようとも無駄になる。
全てを無に帰す極寒の地。誰も立ち入る事はない。
だから知られていない。この地に意思あるものが棲む事を。
「なぁ…」
「なんだ?」
「暑いんだが」
「ココが冷た過ぎなんだ」
「テメェ……お前のせいでさっきから氷が溶けてんだよッ」
「偶には外の景色も見ろよなぁ」
「…永久凍土の一部になるか?」
「なんでだよっ!この引き篭り!!」
俺は目の前に居る、真っ赤な髪の男を見る。
俺の周囲は温度が急激に上がってしまったせいで、氷の壁にヒビが入り、溶け始めている。
全ての原因は、目の前の男のせいだ。
目の前の男はその昔、炎の神の寵愛をその身に受け、炎を操る力を持つ。
その炎の力は、この極寒の地をラフな格好でも進める程強力だ。
今も半袖で俺の前に居る。
ココを何度も訪れては氷を溶かす。正に天災だ。
「…にしても、案外耐久力あるよな。ここの氷。俺が居ても火事になんない」
「なるわけないだろ。俺が創り出してんだぞ」
「…そう思うと凄いよな……俺の炎の力より強いんだから」
氷は溶け出している。
しかし、それ以上の変化は無く、壁の形も変わらない。
俺が目の前の奴に対抗して、周囲の温度を下げているからだ。
「あー…ちょっと冷たい事に目を閉じれば、快適だなここはぁ」
「暑い」
「暑いって…まだー200前後だろ…」
「普段より100度以上高い!!」
「俺が街に行ったら普通で最高気温200超えるわ!!」
「人外野郎!」
「ブーメランだ!」
伊達に数百年生きてるだけあって、初めて会った時よりも言い返してくる様になってる。
最初は本当に馬鹿としか言いようがなくて、自分の体質を今以上に操作出来ていなかった。
おかげで、一度殆どの氷が水になった。
人間達に気付かれない様に処理するのにどけだけ苦労した事か。
何故、炎の神はあんな馬鹿を愛して、炎神の加護なんぞ与えたのか。
「お前ぐらいだよ…本当に。まともに相手できるの」
「普通の人間なら人体発火現象だな」
「そうなんだよ!!お前だって人を氷漬けにしちまうだろ!!?」
「俺は自分の力を操作できる。ココは態と氷の地にしてるだけだ」
「ぐっ……コレが“加護持ち”と“神力持ち”の違いか……」
何度目かのやり取りのはずなのに、奴は崩れ落ちる。
“加護”は神より力を与えられ、何からも守られる。神に認められる…という難所を突破した者達にしか与えられない為、“加護持ち”の数は少ない、が。
対照的に、“神力”は文字通り“神の力”だ。“神力”を扱えるのは神自身か、神と直接的な繋がり……血族のみだ。
しかし、神は寿命とは無縁で子孫繁栄なぞ頭の辞書にない為、子をなさないのが普通だ。
結局、殆どの神力持ちは神本人である。
「お前は“氷の神”の息子だもんな……操作も簡単だってか?」
「当たり前だ。俺はお前に操作のコツを教えたが?」
「言葉で言われても解らん」
「コレだから馬鹿は……」
俺は大きな溜息を吐く。
その溜息を聞いて相手が「失礼な奴ッ!」と騒ぐが、失礼なのはお前だ。
「いきなり来て、人の根城を破壊していくお前がーーーーー」
言うな。と吐き捨てようとして、口を閉じた。
「どうかしたか?ーーー…あれ…?誰か来てる?マジ?」
俺が黙り込んで数秒。
遅れつつも、俺が動きを止めた理由に気付いた様子。
こういう野性的な面の感覚は元人間としては素晴らしい。
だが、今はソレどころでは無い。
この極寒の地に俺達二人以外で立ち入れる者など、其れこそ神の誰かだ。
今はコイツが居るから普段よりは格段に暖かいが、それでもー200度だ。
いくら魔族や魔物といった肉体の強固な者達でも死ぬ。
しかし、この気配は神では無い。
明らかに…魔族と同様のものだ。
「へぇ…俺以外にお前の領域に入れる奴が居るんだ」
「何を感心してんだ。コイツは……明らかに“異常”だ」
呑気に笑っている馬鹿を一蔑し、俺は感覚を研ぎ澄ます。
奴は…もう俺の城のすぐソコだ。
そして、今まで目の前の馬鹿以外に使われた事のない魔法が作動する。
来客を知らせる氷の鐘の音が、下階から徐々に音を大きくしながら、俺達の居る上階まで響いてきた。
そんな招かれざる来客は、俺の人生を一変させた。
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