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魔王×火傷まみれの人間
その日、ある島国に点在する火山が一斉に噴火した。
その国の人口は二十万人。
なんの予兆も無く噴火した山々は、瞬く間に大地を焼き尽くした。
暑い
熱い
アツイ
アツイ
アツイ
アツイ
アツイ
アツイ
アツイ
全てが溶けて、消えていく。
人も家畜も家も大地も。
池や湖、川は蒸発していく。
暑い
熱い
アツイ、アツイ、アツイ、アツイ、アツイ、アツイ、アツイ
死ンデシマウ
「起きろ」
「ーーーッ!!!」
唐突に割り込んできた声に、意識が覚醒した。
心臓がこの上なく脈を打ち、呼吸も荒くて苦しい。
喉が乾燥して焼け付く。ヒリついて痛い。
「目が覚めたか。よく魘される奴だ」
「ーーぁ…ま、ぅ…ぁ」
声を出そうとして失敗した。
そんな俺を紅い眼が見下す。
その眼は、俺を動かなくする。
数秒間、紅い眼は俺の視界内に居たが、不意に何処かへ行く。
ベッドが静かに跳ねる。
慌てて起き上がろうとすると、背に枕を置かれた。
再び視界内に紅い眼が戻ってくる。
「飲め」
頭を支えられ、コップを口にあてがわれる。
素直に口を開けば、少しづつ冷え切った水が流れ込んできた。
その冷たさが気持ち良くて、水に飢えた動物の様に喉を動かす。
冷たさが喉を過ぎ、腹の奥まで落ちていく。
コップ一杯分の水を飲むと、喉の痛みが和らいだ。
体を支えられ、枕を背中から抜き取られ、ゆっくりとベッドに体を戻され一息つく。
「気分は落ち着いたか」
「…はい。かなり」
「そうか」
短い返事が戻ってくると、視界から紅い眼がまた消えた。
「お前の傷もかなりよくなった。そろそろ体を動かせ」
少し離れた場所から声が聞こえる。
きっと、机に積まれた資料と向き合っているのだろう。
また手間を掛けさせてしまった。
ゆっくりと体を起こし、声の方に顔を向ける。
其処には、予想通り資料を見る人物の姿。
俺はこの人に助けられた。
それが一番に脳を過ぎる。
噴火した山々、空を瞬く間に覆った灰と、山を滑り落ちてきた火砕流。
偶然この人と出会っていた俺は、死の一歩手前で助けられた。
死ぬ一歩手前まで俺を放置していたのは、この人なりの気遣いだ。
仲間や家族を、溶ける街で捜し歩いた俺の気が済む様に。
むしろあれだけ溶けた街で動けたのも、この人のおかげだ。
この人の魔法は緻密で、だけど大胆で、神秘的だ。
その凄さは、途切れかけた意識の中で見た。
世に聞くような非道な人じゃない。
俺に情けを掛けた。
他の人達を助けられなかったのは、あまりにも災害が大きすぎたから。
この人は噂に聞く冷酷で血も涙もない人じゃない。
俺を助けて、自らで手当てまでして、魘される俺を宥めてくれるような人だ。
人々が言っている噂に真実なんて無かった。
この人は……
世界中の人間たちが敵視して、倒そうとしていい魔王じゃない。
表情はあまり動かないけど、優しさのあるこの人を殺そうとするなんて駄目だ。
ほとんど寝たきりではあったが、数か月ここで見てきた。
この人は無法者たちが多い魔族を纏め上げ、抑え込んでいる抑止力だ。
もしもこの人が倒れれば、魔族の暴走が始まってしまうだろう。
「どうかしたか?」
見つめ過ぎたらしい。
魔王様がこちらをうかがうように見てくる。
「大丈夫です。何でもありません」
仕事の邪魔にならない様に、笑ってそう返して恐る恐る、ベッドから足を下ろした。
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