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魔王×魔法剣士
「ハァ…」
俺は大きな溜息と共に、挙げるのすら辛くなった腕を根性で持ち上げて双剣を構えた。
開けた荒野だと近づいてくる敵もよく見える。
その敵を見つめたまま、俺は考える。
どうして俺はこんな所に、誰一人味方もなく立っているのか。
俺一人に対して、敵は大多数。
いつまで戦えばいい。
『お前は戦うために生きればいい』
「うるせぇッ」
脳内に響いた過去の声に、反論するように声を荒げた。
それと同時に、敵の軍勢の真上に大魔法を構築、発動させる。
雷鳴が轟き、絶叫なんて聞こえない。
魔力消耗時の脱力感を気合で耐える。
そのまま、膝が崩れ落ちない様に敵軍に向かって疾走する。
剣に風を纏わせた双剣を両手に、雷の降り注ぐ地へと踏み込む。
焼き焦げた骸を越えて、防御魔法で雷を逃れている魔法使いたちを切り捨てる。
魔法を展開したままだから魔力と体力と精神力が削られていくが、知った事ではない。
俺は国家の捨て駒だ。
俺がどうなろうと気にしない。
ほんの少し、使い勝手の良い駒が潰れるだけだ。
例え俺が、魔法と剣術を極めた者に与えられる【魔法剣士】の称号を持っていようと、奴らは気にしない。
なんせ俺は《不適合者》だから。
代々と呼ばれてきた、強大な光属性の力を持つ剣を手に取り武力を持って国に貢献してきた家系。
その家系の直系の長子にありながら、《聖剣》に触れる事すらままならかった《不適合者》。
国には、《聖剣》に選ばれた《適合者》の弟が居る。
だから俺は、精々戦で敵を潰し、戦の中で敵と共に散ることを願われてすら居る。
「俺を殺せる奴は居ねぇのかッ!!」
雷鳴の中で、出来る限りの声を出す。
しかし、周囲には防御で精一杯の者たちしか居ない。
むしろこの雷を防いでいるだけ実力があるんだろう。
だが足りない。
一度だけ、雷を止める。
術式はそのままに。
雷に耐えていた者たちが、何事かと顔を上げた。
「散れ」
俺の言葉を合図に、立っている者たちに的を絞り、威力の上昇した雷が落ちた。
防御魔法を意図も容易く打ち砕き、悲鳴を上げる間もなく敵の身を焼き滅ぼす。
それと同時に俺の魔法は消えた。
立っているのは俺一人で、周囲には物言わぬ骸だけが転がる。
「俺は…いつまでッ」
それ以上は口にしなかった。
崩れ落ちそうになるから。
いっそ俺より強い奴が居て、俺を殺してくれれば解放されるというのに。
この呪いから。
心臓に刻み込まれた、自害を阻み、少しでも多くの敵を屠れと掛けられた忌々しい呪いから。
まだ”国”の敵は来ている。
それを俺は命尽きるまで、一人で戦わなければならない。
まだ魔力にも余裕がある。
剣を振るうことができなくなっても、魔力がある限り魔法をもってして。
魔力が尽きても、剣を振るう腕がある限り敵を断ち切らなければならない。
その命ある限り、命令された敵を鏖殺し続ける。
…また敵軍が見えた。
俺は魔法を構築する。
そして少しの時差で発動させる。
大量の水で遠く離れた敵軍を水に沈め、雷を落とす。
溺れ死なずとも、雷に臓腑をも焼かれて死ぬ。
魔法の行使で再び体から魔力が抜け落ちる。
戦で生き延びる度、この体力と魔力に嫌気がさす。
殿を務め剣を振るう力を使い果たしても、魔力で敵を薙ぎ払い生き延びる。
魔力主体で戦略を組み、魔力を使い果たしても剣で血路を切り開く。
「まったく…嫌になる」
「この圧倒的力を前に、嫌になるのは貴様の敵だろうな」
「ッ!?」
背後から声が聞こえて、飛び下がりながら振り返る。
いつから居たのか、俺の背後には気配もなく、確かに一人の人物が立っていた。
真っ黒な服に全身を包んだ人物。
身長は俺よりも高く、ガタイもいい。
黒い髪に一筋入った金色の目立つ短髪。
その顔は整っているが、感情が読めない。
冷めた眼が俺を見据える。
「それ程の実力を持ちながら…受呪者とは。世の中とは何があるか分からぬな」
「……俺はナルラ・マクファージ。アンタの名を聞いても?」
「…自ら名乗った礼儀正しさに免じて、その願い聞き入れよう。余はサイラルト・カイン・エンシェント。人間達の言葉で言う…魔王だ」
その言葉に、体の芯から震えた。
コイツなら、俺を殺せる。
「…余の正体を知ってなお、余の気に当てられても立てる精神力。…気に入った。お前の願いを言え」
この人は、俺の願いを叶えてくれるのか?
俺をこの呪縛から解いてくれるのだろうか。
俺は双剣を鞘に納めた。
コイツは今回の敵じゃないから呪いも効かない。
「俺の願いは―――」
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