魔王×幸薄魔族 (魔王視点)

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魔王×幸薄魔族 (魔王視点)

『へぇ…お前ヴェダって言うんだ。俺はヴェガ、ヴェガリアスのヴェガ。魔物が全力で逃げ出す体質なんだけど…お前と一緒だと相殺…むしろお釣りがくるみたいだな』 『ヴェガ…戦神の名か』 『そうそう、俺には過ぎた名前。それに比べてお前はヴェガリアスの兄神、美と知の神ヴェダリアスか。うん、ピッタリな知的美男だな』 『兄弟…』 『…あ、俺達珍しい黒髪同士だし、他から見たら兄弟っぽく見えるかもな!』 そう言って笑い出した彼。 不思議な親近感を覚えた。 『兄弟か…いいな。なってみるか?』 私がそう言うと、彼は一瞬キョトン…としたが、次には先程と違って声を上げて笑い出した。 『アハハハハッ!!ひぃー腹痛い!!良いなそれ、乗った!!お前上品な感じするし、漏れ出る魔力に無駄がないから教育を受けた貴族か王族かと思ったけど!旅に地位無し!よろしく兄貴!』 『たしかに地位は関係ないかもしれないな』 『そうそう!…で?本当は?』 彼はニコニコとしたまま聞いてくる。 嘘をついた方がいいのかと考えたが、彼なら大丈夫だろうと考えて事実を言う事にする。 『これでも王族だ。期待はされていないがな』 『そっか!王子か!だからって敬意は示さないからな!』 『そのままで居てくれた方が私としても嬉しい限りだ』 『ハハハッ良い奴だな!よろしく』 『ああ、よろしく頼む』 彼は私が王族だと言っても全く変わらなかった。 そして、度に勢いで出てしまった私に、旅を教えてくれた。 粗野な彼とは”似てない兄弟”を演じるまでもなく、対等で居られた。 彼は普通にしていると、本当にただの庶民のようであっと言う間に周りに溶け込んだ。 そんな彼に”兄”としてついて行く。 時には人間になりすまし、人間の街を見て回り。 数々の絶景にも案内してくれた。 旅をしたのは私たち魔族から見たら短い時間だった。 王族である私がこれだけの自由を認められていたのは、魔力の保有量が少なく、魔族の王の血脈にありながら魔法を苦手としていたからだ。 多少強くとも、王族には絶対的な強さが求められた。 魔力の少ない私は”厄介者”で、城に居ない方が他からすると都合が良かったのだ。 しかし、後に私は私自身の弱さを呪うことになった。 私が弱く、己の身すら守れない弱者であったが為に、旅の途中で私を庇って…仲の良い兄弟の様に対等にあれ、共に旅をしたヴェガリアスを、骸も残さぬ様な死なせ方をしてしまった。 その時の後悔から、私は魔族に極稀に起こる”覚醒”を引き起こした。 身の内に宿っていた魔力は膨れ上がり、それまで知ってはいても行使は出来ずにいた数多の術式を扱えるようになった。 そして、王になるに相応しいと父に認められ帰城し、後を継いで即位した。 だが私は嬉しさを感じなかった。 ヴェガと旅をしている時はあれ程鮮やかに色付いて見えた景色は色褪せ、白黒の世界になった。 王となって数十年。 父が死んだ。 悲しさも何も湧かず、事務的に告別式を執り行った。 私が即位した時点でかなりの年だった。老衰だ。 そして父が死ぬと、父の悪趣味なコレクションが出てきた。 見目の良い若い魔族たち。 これには母も嫌そうな顔をした。 とは言っても、父の妻だけで四人は居た。 驚く程のものでもない。 私の母は二人目の妻であった人で、私はその次男。 そんなのが魔王となったのだ、母は大きな顔をしていたから当然かもしれない。 魔族は全員で六名。女二人に男四人。 全くもって悪趣味だ。 身元を調べるため、全員を調べた。 五人は自分の身元を話すことが出来たため好きにさせたが、約一名は話さなかった。 白い髪に金の眼の男。 ずっと地下に居たにも関わらず体にはしなやかな筋肉がついていると同時、最も傷が多い者でもあった。 その眼は焦点が合わず、口を閉ざしたままだ。 長い髪を地に付けたまま立っているだけ。 「そいつはこの中では最後に入ってきました。その後は先王にひたすらにいいようにされていたようで……珍しく王にすら反抗的な態度を貫く、見事な黒髪の持ち主でしたので目を付けられたのでしょう。精神的にも肉体的にも追い詰められたようでこのように……挙句の果て、顔まで変えられて…以前は美男だったのが、今ではこの儚げな美人さですよ」 そう語ったのは、全員の中でも最年長で、一番古くから父の悪趣味な遊びに付き合わされていたという男の魔族だ。 彼の言う通り、日に焼けていない肌と真っ白な髪で、今にも消えてしまいそうな男だ。 儚く虚ろ。 それが男の第一印象だ。 誰が何を問うても無反応。 表情は全く動くこともなく、まるで人形のようである。 その男の動作は酷く緩慢で、物音一つしない。 口を開かないから身元も分からない。 最年長の男の話では、他の者と違い、一人だけ違う牢に隔離されていたらしい。 そのため、人形の様な男と話す機会もなく、彼の生い立ちも全く分からないとの事だ。 随分と執着していたらしい。 しかしこれでは帰ってもらうことが出来ない。 彼を見ている限り、思考能力はほぼ無いと言っても過言ではない。 恐らく精神が破壊されているのもあるが…何かしらの術がかかっている可能性がある。 少なくとも顔は変えられているらしいからな。 全く、面倒なものを残して行かれたな父上。
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