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キリアンとダンが去った後ベルヴァンドにも変化があった。
レグルスの餌食になるために集められた民たちは解放されて無事、それぞれの故郷に返された。侍女達もである。おそらく生きていたらステラの元同級生たちも、故郷に戻れた筈だ。
プシュレイのイーノック卿にも無事報告ができると リーディは喜んでいた。
魔族はどうやらこの近辺の魔物…とりわけレグルスを改良して毒を仕込ませたらしい。そしてそのレグルスをより巨大化させてその個体を維持する必要があるために男どもを国中から集めたのだ。それに屠らせる食物として。
― おぞましい竪穴は解体されて埋められた。
☆☆☆
「私は、故郷の村で穏やかな暮らしを営んでいきたかったのだが、私の両親がこのペンダントを託された時から、こうなることは決まっていたのかもしれないな。」
グレインは、静かにステラ達の前でそうつぶやいた。
ここはベルヴァンド城の会議室だ。
王の好意で、数日は滞在しても良いと言われた一行は、グレインの意思確認と、これからの動向についてのために話し合いの場を設けたのだ。
グレインの容体は蘇生されてからも経過は良好で、すっかり起き上がられるまでになっていた。
「我が主ベルヴァンド王が傀儡になってしまったように、魔族の脅威があることは確かだ。」
「でもそれだけなのか?」
リーディがそう呟く。
「うーん・・・僕もそう思うんだ~。まずいえるのは僕たちが得体のしれない「封印」を解くのに必要なペンダントの後継者だってことで、命が狙われていたこと。それと…魔族の脅威の動機??がよく見えない。ステラの母姫と魔族が通じたから??ともあれ話を元に戻すと、五元素の封印をそれぞれ解かなければいけない臭いよね。」
封印とは五大元素の神々である。水の神カナロアは封印が説かれ、コウのペンダントの輝石が本来の輝きが取り戻せたが、金の神インバー、を始め 地、風、火の神々はまだ封印は解かれてはいない。おまけに火の神や地の神の所在は依然として不明なのだ。
「今のところ解かれたのは、リンデルの島のカナロア神くらいか。そして目星がついているのは、我がスフィーニの東の離島のインバー神の祀られている祠だ。風の塔は扉が開かなかったはずだし…。」
「残りの火の神と地の神がどこに祀られているかってそこも不明なんだよねー。ベルヴァンド王にもちょっと訊いてみたけれど、知らないって。でも心に留めておくので情報を得られるよう協力するってさ。」
リーディとメイが、次々とそう言うと、
キャロルは頷く。
「…導きの指針は見えてきたようだけれども…体調は皆さん大丈夫かしら??」
毎回のことであるが、必ず彼らの行動には死闘などが付きまとう。ベルヴァンドにおける活動は、オッドアイとの魔性の死闘の前に数か月における潜伏もあり、慢性的な疲労が蓄積されていることは確かだ。
「そういうキャロルは??」
ステラは初めて言葉を発した。
「私は大丈夫よ。 みんなが気遣ってくれたおかげで遠慮なく眠れたしね。」
キャロルはグレインの蘇生もあって、一番気力が削がれている筈だが、無理を絶対しない彼女をステラは信じた。
「そしたら明日には出立しよう。まずはプシュレイに寄ってスフィーニに移動して、インバー神のところにグレイン隊長を連れて行こう?」
「…ステラ、もう隊長なんてつけなくて構わない。」
グレインが穏やかな笑みをたたえて、そう答えるのでステラも、
「そうね、そしたらグレインも私をそのまま名前で呼んでほしい。」
彼女も頷いて笑った。
☆☆☆
結論として。プシュレイ君主イーノック卿に一部始終を報告し、それからインバー神に目通る為にスフィーニに戻り、それからエストリアでキリアンとの約束を果たすためギルドに戻るという選択となった。
「まぁ、彼のことだから僕に何か作ってくれとか(武器を)言うのだろうね。」
コウが苦い顔をして呟いたので、メイが軽い口調で窘める。
「悪いね、コウ。あやつに借りを作ってしまい 。でもキリアンがいなかったら私は絶対にベルヴァンドに侵入できなかったのは確かだからさ~。」
ともあれ一行は、新たな最後の仲間のグレインと共にとりあえずプシュレイに寄って、そこから移動呪文でスフィーニに戻ることとなった。
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