room share

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「んじゃおやすみー。電気消すよー。」 「おやすみ。」 「もっとこっち寄れよ。今日寒いだろ。」 「あぁ……うん。」 エアコンもないから寒い日はくっついて眠る。二枚の布団をぴったりと付けて、お互いに真ん中に寄って身体を密着させる。それでも寒い時は、慧は俺を抱き寄せて、抱き枕みたいにして眠る。冬はこんな事が毎日だから、単純だけれど俺は冬が大好きになった。 だからほんの少し、いやかなり、春が来るのは憂鬱だ。桜の花は好きだけど、もう少しだけ……後もう少しだけ……寒いままで。なんて願ってしまう。 髪にかかる寝息とか、規則正しい心音とか、そういう一つ一つが堪らなく愛おしい。聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいの煩い心臓が、どれだけ慧を好きなのかを自覚させられているみたいで、いつバレやしないかと気が気じゃない。 この想いは知られる訳にはいかない。 「眠れないよ……」 慧の寝息が聞こえた後で、小さく呟いた。バクバクと音を響かせ続ける心臓に手を当てて、なだめるようにゆっくりと息を吐いた。 少しだけ上を見上げて、膨らんでは縮む呼吸のリズムに合わせて微かに揺れる睫毛を見つめた。こんなにもじっくりと顔を見つめられるのは、慧が眠っている時くらいだから。 安心しきった表情は嬉しくもあり、切なくもある。 また明日、寝起きの悪い慧を起こす事が堪らなく楽しみだ。「おはよ……」って掠れた声を聞くのも、ボーッとした顔を見るのも、想像するだけで頬が緩んでしまう。 ニヤけた顔で慧を見つめたまま、俺の身体を抱き締める腕にそっと触れてすぐに離した。眠れる自信はないけれど、無理やりに目を閉じた。 お金がないから、俺は大好きな人とこんなにも時間を共に出来ている。 狭くて古い部屋も、 イマジネーションが必要な野菜炒めも、 ぎゅうぎゅうの浴室も、 サイズが微妙に合っていない服も、 意図した訳じゃないアシンメトリーな前髪も、 温かな体温や腕の重みも、 ニカっと笑うあどけない笑顔も。 お金がないから、俺は叶う筈のない想いを持ち続けていられる。 お金がないから…… だから俺は、幸せなのだ。
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