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「はーら減ったー。今日の晩飯何?」 帰ってくるなりの第一声は、いつも同じ言葉。疲れているくせにテンションが高めなのも、後ろからひょいっと顔を出してフライパンの中身を確認するのも、いつも通りだ。 「野菜炒め。」 「野菜……って、もやし以外俺の目には見えないんだけど。」 「もやしは野菜だろ?」 「そうだけど……野菜炒めって確か、人参とかピーマンとか、後肉とか肉とか肉も入ってたりするアレよな?」 「そうだけど。」 「そう……だよな。」 後ろを振り返り、どうにも府に落ちない顔をしている慧(さとし)を見やる。「おかえり」はいつも言いそびれてしまう。 「先にシャワーしてくる?」 「いや、今日何か腰痛くてさ、風呂に浸かりたいんだよなー。だから飯食ってからでもいい? あ、もしかして臭い?」 「臭くないよ。大丈夫。じゃぁ、もう出来るからご飯よそって。」 「りょーかい!」 さっと手を洗い、手際よく茶碗にご飯をよそう慧の姿を見つめながら、自然と笑みが溢れた。 俺と慧が一緒に住むようになってから一年が過ぎた。きっかけは高校三年の夏休み。それまでお互い面識すらなかったのに、たまたま共通の友人が居た事で一気に距離が縮まった。話してみたらお互い目指すものは違っていても上京したいという夢は同じだった。 だけど俺たちには金がなかった。夢があるなら卒業までに必死にバイトでも何でもすればいい所だが、俺たちはそれぞれ運動部に所属していて、引退してからも何かと部に顔を出しては後輩たちと無邪気に汗を流していたのだ。 だから上京を諦めて、俺は地元の大学に、慧は専門学校に行こうと思っていたって話をお互いした後に、 「もし良かったら、一緒に住まない?」 と気付いたら口から出ていたのだ。慧は一切迷わずに俺の提案に乗った。 そうして俺たちは卒業してすぐに一緒に暮らし始めた。東京の家賃は思っていたよりも高くて、やっとの思いで探したワンルームで六畳しかないこの部屋の家賃だって中々のものだ。 今思えば無計画にも程があるし、そういういい加減な部分もお互い似ていたんだと思う。 上京に関しても、簡単に諦めようと思っていたくらいだからそこまでの情熱もなかった筈だ。それでも、慧と一緒なら楽しいんじゃないかって、頑張れるんじゃないかって、漠然と思ったんだ。波長が合うっていうのはこういう事を言うんだと、この時はまだその程度の気持ちだった。
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