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カレーライスの材料を買い揃えた二人はキッチンに肩を並べた。
「優斗、それじゃまずはジャガイモを洗ってくれ。それが終わったらニンジンの皮むきを教えてやる」
「分かった!」
好奇心に満ち溢れた優斗の顔を見た洋平は、このような時間をもっと早く作るべきだったと小さく悔やみながらタマネギの皮をむいた。
優斗がピーラーを使って皮をむいたニンジンは、まだらに皮が残っていて、洋平は自分もよくお袋に怒られたなと感慨深くそれを眺めていた。
その時である。
「ボクもこれやりたい」
と、優斗がまな板の上の包丁を手にとった。
「優斗! ダメだ!」
洋平は包丁が握られた優斗の右手を押さえて、優斗の目線にあわせるように屈んでから続けた。
「いいか優斗、よく聞くんだ。包丁は便利な物だけど、とても危ない物でもあるんだ。自分の指を切るくらいならまだいい。だが刺し所が悪ければ、人間だって簡単に殺せてしまう。ほら、ここら辺だ。ここには心臓や肺といった人間にとってとても大切な物が入っている。ここを一突きすれば、優斗の力でも、お父さんのような大人の男だって殺せるんだ」
瞬きを忘れた優斗の瞳に、洋平は自分の胸に右手を添えてから諭すようにもう一度言った。
「いいか、ここら辺だ。ここを包丁で刺すと人は死んでしまうんだ。だから、包丁を使う時は気をつけるんだぞ、優斗」
優斗は洋平の言葉を重く受け止めたように言った。
「分かった……」
洋平は優斗の包丁を優しく取り上げて、優斗の頭に一つ手を乗せてから言った。
「よし、いい子だ。それじゃ今度は包丁を使って野菜の切り方を教えてやる。上手く野菜が切れたら、優斗にお父さんの宝物をあげよう」
「宝物?」
と、向日葵のような笑顔を浮かべた優斗は、すぐに表情を戻して、真剣に包丁を持って野菜と向き合った。
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