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 洋平は車と少し距離を置いてから真弓に言った。 「優斗にカメラをあげたんだ。優斗が飽きたら売ってしまってもいいから」 「そう……」  暫しの沈黙の後に真弓が言った。 「あなた、ごめんなさい……」 「何故お前が謝るんだ」  それから、真弓は口をもごもごと動かすだけで、言葉が零れ落ちる様子はなかった。見かねた洋平が言った。 「俺の方こそ、すまなかった」  洋平はまるでいたずらがバレて観念したというような笑みを浮かべて続けた。 「知っていたんだよ。最後に使った木製のサイコロ、一の目が出るように細工がしてあったろう」  はっと顔を上げた真弓に、洋平が畳み掛けるように更に続けた。 「でももう、そんなことはどうでもいいんだ。水道工事か、電気工事か知らないけど、あの若い男と上手くやれよ」  洋平は真弓の浮気を知っていた。その為に買ったカメラであったのだから。  ある日、仕事を終えた洋平が家に帰ると、真弓が綺麗に化粧をして外行きの服を着ていた。それが一度や二度なら、鈍感な男であれば気がつくことはないだろう。だがその頻度は次第に増していった。更に休日には、優斗を洋平に任せてちょくちょくと家を空けるようになっていったのだ。そんな真弓の日中の行動を映し出す為に購入したカメラには、真弓と作業着を着た若い男との情事が鮮明に映っていた。洋平が会社の女子更衣室を盗撮したのはその後で、そういった精神状態であったからである。洋平が言った『気の迷い』だったのは、あながち間違ってはいなかった。  明らかに困惑の表情を浮かべている真弓を無視して、洋平は運転席のドアを開けた。洋平の目に飛び込んできたのは、真弓に負けないくらい困惑している優斗であった。今にも泣きそうな震えた声を出した。 「お父さん、これ……」  カメラの停止ボタンを押して動画を止めた洋平は諭すように言った。 「いいか優斗、世の中には色々なことがある。嬉しいこともあれば、辛いこと、悔しいこと、沢山だ。お前は俺と同じでそれをあまり表には出さないんだけど、たまにはな、それを爆発させてもいいんだぞ。男らしく、お前らしく生きるんだ。分かったな」  優斗は洋平の言葉を百理解したのか、或いは同意を即された為の反射的な行動なのかは明確ではないが、コクリと一つだけ頷いた。
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