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真弓はサイコロを振った。
覗き込む二人の眼差しを一身に受けたサイコロは、コロリと恥ずかしそうに二つの円らな瞳を二人に向けた。真弓がコマ代わりのピンクの箸置きを二つ進めると、止まったマスの上部には黄色い花らしき絵が描いてあった。バラのように密集した花びらの先はギザギザと尖っていた。
「黄色いカーネーションかしらね。優斗が書いた文字は……『おにわにはなをうえる』ね。花にまつわる話し、何かあったかしら」
真弓の目が一度宙を舞って、すぐに舞い戻ってから真弓は続けた。
「私ね、昔から花が好きなの」
「知ってるよ」
すかさず洋平が茶々を入れた。
「もう、最後まで聞いて。うちの母親は専業主婦で、有り余る時間のほとんどを庭の手入れに費やしていたの」
「そういえばお前の実家に挨拶に行った時、綺麗に手入れしてあったな」
「でしょ。小さい頃から見てきたから、私にも自然と花はとても近い存在だったの。母親は色や形といった造形で花を選んでいたみたいだけど、私はもっとその花の意味を考えるようになったのよ。ほら、花言葉ってあるでしょ、それに十歳くらいの時から興味を持って、その年のお誕生日に買ってもらった花言葉辞典は、今でも大事に実家にしまってあるわ」
「花言葉、か」
「あなたは、というよりも男性は、と言った方がいいかしら、あまり興味がないでしょ。結婚式のブーケトスのお花、覚えてる?」
「確か、紫色だったような」
真弓は少しだけ驚いた表情をしてから言った。
「あら、それだけでも覚えていてくれているなんて、少しだけ見直したわ。実はね、あのブーケにも私の気持ちが込められていたの。あの花はパンジー、花言葉は『つつましい幸せ』。私は人よりも裕福で大きな愛が欲しいなんて望んでなかったの。家族が幸せであればそれだけでよかったのよ」
「そうか」
洋平は少しの間表情を変えることなく、優斗の描いた黄色い花をじっと見つめながら呟いた。
「そんな意味が込められていたなんて、知らなかったよ」
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