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 すぐそこに沈黙が待ち伏せをしていた。それを敏感に察知したかのように真弓が言った。 「さあ、次はあなたの番。ほら、サイコロを振って」  真弓に促されたままに洋平がサイコロを振ると、サイコロは四つの目で二人を見つめた。 「四だから昨日決めた通り、進むのは一マスね。あなた、幸先悪いわね」 「そうかな。よく読んで見ろよ」 「『でんしゃにのる』って、二つ進む?」  洋平は怪訝な顔をする真弓を無視して、水色の箸置きをピンクの箸置きの一つ先のマスに進めてから言った。 「さて、電車について話せばいいのかな」  興味津々といった様子で、目を大きく広げた少女のような目を向ける真弓に洋平は続けた。 「小さい頃、っていっても中学生くらいの時なんだけど、俺、実は電車が好きだったんだ。マニアとまではいかないけどさ、無断で親父の安いカメラを持って、本当に稚拙な写真を撮りに行ったりしてたんだ」  洋平の言葉を受けた真弓が一瞬奥歯で小さな苦虫を潰したような表情をしたのを、洋平は見逃さなかった。 「そんな顔をしないでくれよ、話はこれからなんだ。夏休みに埼玉の田舎の方に一人で撮影に行ったんだ。動き出す電車を撮ろうと、ホームの端に立ってカメラを構えていた。そしたら突然、ガンッ、で顔面に衝撃を受けたんだ」 「えっ?」 っと、真弓があからさまな心配顔をした。 「夢中になりすぎて、電車にカメラをぶつけてしまったのさ。ゆるゆると電車を止めた車掌さんがすぐに大丈夫かって声をかけてくれたんだ。気が動転していた俺は必死に、大丈夫、すいません、って頭を下げていたっけ」 「本当に、大丈夫だったの?」 「うん。大きな怪我もしなかったし、電車を止めてしまった損害賠償なんてのもなかったよ」 「よかった……」 「残されたのは、カメラに押し付けられた右目の周りの痣と、壊れた親父の安物のカメラ。家に帰って親父にこっ酷く叱られて、左目にも右目と同じような痣を作った俺は、それから電車を撮ることを止めたよ」 「そうね……」  胸を撫で下ろした真弓が続けた。 「本当に、止めて正解だったのよ……」
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