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 真弓の表情が般若の面から、すぐにオタフクに変化するのを見た洋平は、口元に笑みを浮かべた。  晩ご飯の食卓に独白が彩りを加えただけのことであるが、二人にはもう何年もの間なかったものであった。つかの間の『つつましい幸せ』だったのかも知れない。  思い出話は、一日に一度だけ、ささやかだが小さな花を咲かせた。  『たのしいゆめをみる』というマスに止まった真弓が、小さい頃の夢がアイドルで、だけどどうしようもなく音痴だったことを恥ずかしげに語れば、『いぬをかう』というマスに止まった洋平は、小さい頃に犬の代わりに飼ってもらったシマリスと何かを戦わせようと、籠の中にカマキリを入れたら、シマリスが圧勝して、直後にシマリスがカマキリの腹を裂いておいしそうに食べているのを見てリスが嫌いになったことを語った。  外にも、真弓は洋平と行った熱海が男性との初めての旅行だったことや、優斗を産んだ時の痛みについて語れば、洋平は重度のお婆ちゃん子だったことや、初恋の人が告白する前に引越してしまったという話をした。会話の内容こそ他愛もないのだが、余所の家庭からみればきっと羨ましがられるだろう。  まるで新婚の二人に戻ったと錯覚させるような温かな団らんであった。
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