189人が本棚に入れています
本棚に追加
「着いたぞ、ポメ」
はっ……? ここは何処だ?
不覚にも眠っていたらしい。これも魔力がないが故の醜態か。しかしポメというのは何だ?
人間に運ばれていたらしい私は、腕の中で体を伸ばした。
目の前にはみすぼらしい小屋が建っている。狭い庭には魔力の欠片もない木々が生えていたが、みな栄養不足に見えた。
「ちょっとボロいけど、大家さんがいい人でさ、動物飼ってもいいんだ。あ、もちろんポメの飼い主はちゃんと探してやるから」
「ヴー!」
この私に飼い主だと!? 私は魔族を統べる王だぞ。人間風情が生意気な。
「よしよし。何怒ってるんだ?」
人間は私の怒りなどお構いなしに、みすぼらしい小屋へと入っていった。この馬小屋より狭い空間が、この人間の住処らしい。
人間は私を粗末な板の上に下ろした。何か魔力の足しになるものはないかと、その狭い部屋を回ってみるが、呆れるほど何も無かった。唯一隣の部屋に、布を繋ぎ合わせた置物が設置されており、そこから微量の力を感じた。
フム、ここは良いな。ここを私の定位置にしよう。
「ポメ、こたつに入りたいのか?」
こたつと言うのか。勇者の剣といい、人間はろくに力も無いくせに、たまに恐ろしい物を作り出すな。
私はこたつに入り、顔を出して人間の行動を注視した。
人間はまず、皿に水を汲んで来た。飲めという事らしい。みすぼらしい皿だが、この人間はどうやら貧しい身分のようなので、豪華な物は期待できないだろう。もう少し魔力が貯まれば、もっと金のある人間から魔力を奪う事にしよう。仕方なく水を飲むと、今度はぐちゃぐちゃした形の食事を持ってきた。
これを食えと……。
おのれ勇者め。そして人間め。
屈辱にうち震えながら、空腹に負けてその固形物を口に運ぶ。
美味……!
やるな人間め。
ちらりと男の顔を見れば、私の心が読めたかのように微笑み返してきた。
最初のコメントを投稿しよう!