いなくなったポメ

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「タケルってさ、僕のこと好きだろ」 「えっ!?」  目の前の大好きな人に言い当てられて、返事もできないくらい動揺した。 「そうだと思ったんだよな。いつも僕のこと見てるし。まあでも、アパートを紹介したら本当に引っ越して来るとは思わなかったけど」 「あ、あれは……べつにその、家賃が安くて、大家さんもいい人だったし、先輩のことは好きっていうか、尊敬していて……」  駄目だ。否定しないと嫌われる。  気持ち悪いとか、ストーカーみたいに思われたら最悪だ。  そう思うのに、焦って言葉が上手く出てこない。  だって憧れの先輩にアパートを紹介されたとき、本当に嬉しかったんだ。少しでも近くに住めるって。それがどんなにボロくていわく付きのアパートでも。 「あれ? じゃ、僕のことは憧れてるだけなの?」 「え?」  春樹先輩が、ニコニコしながら俺を見てる。  背の高い先輩は、サラサラの明るい茶髪で誰もが見とれるほど整った顔立ちで、どこから見ても完璧な人だ。高校に入学した時に一目ぼれをしたその人に、声をかけてもらえるようになるまで二年かかったけど、まさか、こんなに近くで親しい会話ができるようになるなんて思わなかった。 「タケルは知ってると思うけど、僕は可愛い子が好きだから、タケルの事も好きだよ」 「な……なんで、俺可愛いとか全然……!」 「ほら、動揺した。そういうところ」 「あ、あの……」  春樹先輩は、動揺する俺の肩に手を回し 「今は誰もいないから、部屋に来る?」 と耳元で囁いた。 「は、はい……」 ***  電車の中で、朝見ていた願望がだだ漏れの夢を思い出して、表情が崩れないように必死で顔を作る。  すごい夢だった。  春樹先輩がいきなり俺に告白してきて、アパートの部屋に誘われて、その後はもうやりたい放題だ。  いくら夢とはいえ、自分の願望をあそこまではっきりと見せつけられるとヘコむ。授業にも全然集中できなかったし、思い出しては現実とのギャップにため息が出る。  春樹先輩があんな事言うはずないじゃないか。先輩は頭が良くて顔立ちも完璧で、背が高くてスタイルも良くて、皆に人気があるから、平凡な俺を好きになる可能性は限りなくゼロに近い。  だからあの夢は、ポメが見せてくれたオマケみたいなものだろう。ポメは否定していたけど。  ポメ……部屋に一匹で置いてきたけど大丈夫だろうか。やっぱり坂本さんに頼んでおけば良かったかな。  少し普通の犬と違うから大丈夫だとは思うけど、短時間留守にしただけで部屋中ぐちゃぐちゃにされたからな……。  しばらくの間はどこにもよらずに早く帰ろう。バイトも断って、帰ってからはたくさん遊んでやらないとな。  電車を降りると、アパートまではすぐだ。途中のコンビニにもよらず、とにかくポメの様子を見ようと走って帰る事にした。アパートの壁の近くまで着いたので、歩きながら鞄から鍵を取り出す。  ポメが悪さをしてないといいけど、と思いながら階段を上った所で俺の足は止まった。 「あ、タケル、久しぶり」  二つ先の部屋の扉の前に、今朝夢に見たばかりの春樹先輩が立っていた。 「あっ、お、お久しぶりです……」  硬直する俺に気づかず、春樹先輩は笑顔でこっちに近づいてくる。手には白い紙袋を下げていた。 「ちょうど良かった。実は二週間ほど旅行に行ってて、これお土産品」 「あ、ありがとうございます」  や、やば……心臓が無駄にドキドキしてる。緊張しながら紙袋を受け取ると、春樹さんが笑いながら 「タケルってさ、僕の事好きなの?」 と言った。
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