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「ワン(なかなか美味であったぞ)」
「ポメ、よほどお腹がすいていたんだな」
「ヴー(触るな)」
食べ終わった食器を片付けるのはいいが、目の前の人間はやたらと私に触りたがる。
獣の姿でも、私の美しさは隠せないという事か。魔界にいる時は、歴代の魔王の中でも屈指の美形だと評判だったからな。
しかしこんな下等な人間でも、身の程もわきまえずに手を伸ばしてくるのだから、美しいのも考えものだな。
思いの外美味い食事を完食してこたつに身を横たえると、わずかながら力が戻ってくるような気がする。だが昔の姿を取り戻すには時間がかかりそうだ。
「ワフッ!?」
こたつという安住の地に身を横たえていたというのに、突然男に引っぱり出された。
貴様……! そうやすやすとエネルギーは与えないという事か!
「ポメ、その前に足洗おうな」
***
(貴様、人間にしてはなかなか気が利くではないか)
もともと入浴は嫌いではない。たとえ馬小屋より狭い貧相な浴室であろうと、上質な湯が出るのなら何の問題もない。
男は私の手足を丁寧に洗い、気を良くした私は更に体を洗えと要求した。
「お風呂好きの犬って珍しいな。でも、元気になるまでお風呂はおあずけな? 体力なくなるだろ」
なるほど、男の言う事にも一理ある。今は魔力を戻す事が最優先だ。ここは我慢してやるか。
男は私の身体を柔らかい布で拭き、足に頬ずりをした。
服従のポーズという事か。貴様の忠誠心は認めてやろう。魔力が戻っても、貴様は殺さずにおいてやる。
「くぅ~肉球かわいいなぁぁー……」
この男、部下にはいないタイプだな……。
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