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再びこたつという居心地の良い場所に身を横たえ、じわじわと力が満ちてくるのを感じながら微睡んでいると、男が何かを話しはじめた。
「……という訳でさ、すごくかわいいんだけど……」
こたつから顔を出して男の様子を覗うと、男は何か四角い物を耳にあてながら話していた。
人間、には見えない。魔族?
あのような四角い魔族がいただろうか。いや人間界に魔族がいたらこの私が見逃すはずがない。動物にも見えない。つまりあの四角は、魔界に存在するところの水鏡や水晶球のような物であろう。
座っているのがボロ布をつなぎ合わせただけの足のない椅子だから、てっきり貧しい村人だと思っていたが、こたつといい水晶球といい、侮れぬ男だ。
しばらく途切れ途切れに聞こえてくる言葉に耳を澄ませる。四角の向こうにいる誰かに、何かを相談しているようだ。
「……どうやって探したらいいかな?」
探す?
その単語を聞いて私の耳がピクリと震えた。
分かったぞ、貴様。私が眠っていると思い油断したな。貴様が探しているのは勇者とその一行だろう。私が魔王だと気づいてとどめを刺すつもりなのだな。先ほど服従のポーズをとったのも、私を欺く為か。
「あれ?どうしたポメ」
「ヴー」
私を欺いた事を後悔するがいい!
カプ
「あはは、やめろってポメ……あ、ああ、拾った子犬。多分ポメラニアンだと思うんだけどさ、急にじゃれついてきて、遊んで欲しいのかな?」
この私の攻撃が効かないとは……。
ショックでプライドが粉々に砕けそうになったが、何とか気持ちを落ち着かせた。
魔力だ。魔力さえ戻れば、このような村人が何千人向かってこようと一撃で葬り去る自信があるのに。
ふと目を上げると、四角い物体を持つ男の脇ががら空きな事に気づいた。
「ワウッ!」
「うわっ!」
心臓を狙って渾身の頭突きをくらわせてやった。男はバランスを崩し、ボロ布椅子の上に倒れる。
「キャンキャン(油断大敵だな。今すぐこの心臓を止めてやってもいいのだぞ)」
動揺する男の上に馬乗りになって、黒い笑みを浮かべながら、シャツの下の心臓を押してやった。
ん? 何だこのエネルギーは。
男の心臓の位置から、こたつ以上の力が放出されている。
素晴らしい……! 魔力が、少しずつだが戻ってくる。
私は少しでも魔力を取り戻そうと、シャツの下に潜り込んだ。
***
男はそろそろと、四角い物体を耳に当てた。
「姉ちゃん……ポメが、服の中に入って来た。シャツから顔だけ出して……可愛すぎるんだけど、どうしよう。やっぱり飼い主探さなきゃ駄目かな?」
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