16人が本棚に入れています
本棚に追加
死に逝った感情に息吹を
▪朝陽×感情喪失白夜
▪日常文
―――――――
こんな下らない世界に終止符をーーそう思ったのは、いつの日か。それが傷となり、膿となっては漏れ出して、そうして瘡蓋となり、完治した。それはそれは、とてつもなく良くない方向に。
「なあ、月之宮?」
「…………」
「また無視かよ」
「虫は飛んでない」
「あぁ~、確かにそうっすね。じゃあ、言い方変えるわ。
無視されてるよ、俺」
「誰に」
「お前さん以外に誰かいる?」
「…………」
逢魔時の縁側。暇を持て余すように、沈み行く夕陽を眺める二人。いつもの如く、無愛想な彼女を前に滴る朝陽の溜め息はどこか優しくて。
「喋る必要がない」
「作れな。俺がお前さんと喋りてぇの」
「何で?」
「『何で?』って……話すのに、一々理由が必要なのかよ」
「……肉細工に話しかけてるのと、変わらないのに」
青眼が鋭利な視線で朝陽を睨む。無を隠さない、寧ろ魅せた彼女の表情。朝陽の顔が一気に険しいものとなっていく。
「肉細工って何だ?」
「死体。人形」
外れた視線は夕陽へと流れた。これ以上にない強い言葉は、拒絶を燻らせ、彼の思考にとぐろを巻かせる。
感情がまるでない、彼女の横顔。目に映すだけで、痛々しい。
「本当に、人形ならーー」
「え」
だけど、それでも、諦めたくない。儚さを確かなものに、絶対的なものにしたくて、引き寄せたか細き腕。
「俺の好きにさせろな」
「…………」
抱き寄せた先、毛先を踊らされるかのように撫でられた頭に、彼女の表情が凍る。だけど、
「離されたくないんすか?」
「…………」
「いや、そのっ……、こ、ここいらで『嫌』とか何とか言って貰わんと」
「何で?」
「そしたらホレ、『感情があるなら人形じゃない』って……そう言えるから」
困惑するように呟かれたその一言に、彼女の目がきょとんとした。
だが、彼はそれに気付かず、懸命に言葉を走らせたのだ。
「いっ、いやな……慣れてねぇんだよ。女にこうするの……」
「…………」
「なぁ、月之宮ぁ~。何とか言えなあぁ~」
酷く素っ頓狂な声が飛ぶ。
指先から伝わる緊張と、辿々しい仕草と。
それを満喫する彼女が微笑みを浮かべた事を、彼は知らない。
……END
最初のコメントを投稿しよう!