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〈3〉
予定は正午だったけれど、7時前に家を出る。静かに自転車を出して通いなれた道を走った。
可能か不可能か、そんなことはわからない。でもわからないからこそのスリルでドキドキしていた。
最後の坂はいつものようにきつい。いや、約1ヵ月上っていない分、キツさは増している。とにかく自転車を降りずにこの坂を上るんだ。
正門の奥には桜並木がある。葉桜になってしまった勇姿を見ながら、裏門に回った。
もちろん裏門も鍵がかかっている。少し離れた場所に自転車を止めてから、門を乗り越えて校内に入った。
校舎自体には鍵はかかっていない。問題はカラーガード。
警備員さんはどうしてるんだろう?この状況下では休みかもしれない。それでも出来る限り音を立てずに教室に向かった。
教室には鍵がかかっている。でも親父も通った古い校舎の教室のドアは、持ち上げるとドアごと外れる。ゆっくりとドアを外した。
長期休みのあと、最初に教室に入るやつはこのなんとなく湿ったような埃臭い匂いを嗅いでいたんだろう。後ろの黒板には『2年、お疲れっす!』と誰かが書いた落書きが残っていた。3年のクラス替えといっても、各クラスの教室にいることはほとんどない。それぞれが進路に合わせて受験に沿った科目の授業を受けるから。
そのときに気づいた。カラーガードをリツがここに置いているはずはない。ただの休みじゃない『緊急事態宣言』は春休み前からの突入だった。この教室はもう俺たちの場所じゃない。
今の俺たちの場所はわからない。キーやんは2年の俺たちの担任で、3年の担任はまだ誰かもわからない。とりあえず生徒のことを把握している前学年の担任が、プリント配ったりしてるのかもしれない。そう思ったとき、自分のいる場所がないような宙に浮いているような感覚と、目の前にエモいフィルターがかけられてボンヤリと影がかかっているような気がした。
ポケットからスマホを出す。リツにLINEを送ろうとしてやめた。きっとダメだと言うし、リツに迷惑がかかってはいけない。
そのとき、スマホのバイブ。タケル。
(おはよう、ワクワクして学校来てんけどな、見つかってしもた。ごめん。でも計画のことは言うてない!)
(ええよ大丈夫か?)
(うん、警備のオッチャンと仲良しやからな)
そうか、タケルのとこは警備員さん来てはるんか。
(気をつけて帰れよ)
(おう、坂上の方見とくし12時)
タケルの返信に、がっかりしながらどこかでほっとしていた。リツを巻き込んではいけないと思ったように、やっぱりタケルやヒロシたちも巻き込むべきではないのかもしれない。そのままヒロシにLINEを送る。
ヒロシもキュウジもわかってくれて、最初の計画は無くなった。
(オマエはどうするん?やるん?)
キュウジからの返信に、少し考えてから
(やる)
と送り返す。
(ほんだら正午におまえを確認する!確認したら『#アホーガード』な)
キュウジの返信にスタンプを返した。とにかくまずは旗だ。
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