３語物語

★『果実』『絶望』『旗』（0501）※全5pありますm(__)m

〈４〉

　リツは吹奏楽部。だからカラーガードは吹奏楽部部室にある可能性が一番高い。まさか家に持って帰ってたらお手上げになるけれど。最後の日は一緒に帰ったけど、持ってなかった。あの時はここまで酷いことになるとは思ってなかった。春休みがちょっと長くなるくらいにしか。

　吹奏学部の部室も古い校舎にある。同じように音を立てないようにドアを外した。
　運動部とは違う整頓された部室の一番奥の壁に見つけたカラーガードは、赤い旗が丁寧に巻き付けられた形ですっと立っていた。その様子はリツのようだと思う。
「三年、同じクラスになったらいいね」
　国全体が緊急事態と言われた日、ファミレスでお茶をしたのを最後に生身のリツとは会えていない。LINEビデオ通話ではリツの顔しか見てない。だから余計、凛と立っているカラーガードが愛しくなった。姿勢のいいリツの姿と重なった。
　ええんか？この正しさを纏うように、凛とした旗を俺の自己満足のために使って。実際にパレードすることはできなくても、指揮を任命されたリツの誇りを踏みにじることにならんのか？

　壁に立てかけられた真っ赤なカラーガードに近づいて恐る恐る触れる。長い棒にキュッと音が聞こえるほどにしっかりと巻かれた赤い旗。細い赤いリボンで広がらないように巻き留めてある。綺麗な蝶々結びにされたリボンは、今年のバレンタインデーにリツから貰った手作りチョコレートのラッピングと同じリボン、同じ結び目。