★『果実』『絶望』『旗』(0501)※全5pありますm(__)m

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★『果実』『絶望』『旗』(0501)※全5pありますm(__)m

〈1〉  新しい時代になって一年、俺たちは絶望の中にいた。  私立の学校ではWEB授業が行われているらしい。でもPC環境や通信環境が平等ではない俺たち公立高校では、そんな取組もいっこうに進まない。それでも今年高三生は半年先には受験の中にいるのか?  金がある家に生まれた者と、そうでない者がとことんはっきりと分けられる、それが今年なんだと思う。学校から届けられたプリントの束を見て、そんなことを思いながらスマホを開いてTwtterを見る。  いつもバカなことばかり流れてくるホーム画面も驚異のウイルスの話か、不平等への嘆きばかりで気が滅入ってしまう。  本当なら、中学時代の仲間たちとGWにはキャンプをする約束になっていた。もちろんお流れだ。  寝転んだベッドの枕元にスマホを置いて天井を見上げる。 「PCない家のが少ないだろうが」  そんな独り言を言ったとき、スマホが呼ぶ。正道。 (プリント来た?)  文字がヒマそうだ。 (来た。キーやんが配って歩いてるんかな)  ちょっと風変わりな担任、キーやんは長い間、講師をしていだけれど、数年前に正式採用されて、俺たちの担任になったらしい。 (キーやん、正式に先生なってて良かったな。講師やったら収入なかったんちゃうん。ライブもできんしな) (そうやな)  音楽で収入を貰えないから、若いときは正式採用を断ってたという変わり者のキーやんは、俺たちにとっては話のわかるいい教師だ。 (ヒマやな。学校めんどくさかったけど) (プリントせえよ、せっかく キーやん回ってんねんから)  そんなことを言いながら、自分もデスクの上に置いたままだけど。 (なあ、どうなんねんやろな)  どうなるんだろう。そして俺たちの未来はどうなるんだろう。こんなことは生まれて初めてだ。 (わからん、プリントしとこ) (うん)  坂の上にある俺たちの学校は、ここいらでは有名な進学校だ。古い校舎に辿り着くには、校門に続く長い坂を登る。あの坂が嫌だったけれどそれもあと1年だと思っていた。  坂はきついけれど春には、この辺りより少し遅れて桜が咲く。去年は始業式の日に満開で正道たちと屋上から花見をした。今年はあの桜を見ていない。  他の学校はどうしてるんだろう。一緒にキャンプをする予定だった中学の友人たち、みんな進んだ高校は別々だ。キャンプで思い出作って、あとは受験になだれ込む予定だった今年、俺たちはひとつの思い出を作ることもなく、桜が終わり、もうすぐ夏が来る。正道たち野球部の後輩は、甲子園がなくなり泣いていたらしい。  吹奏楽部の三年は、今年のマーチングパレードを最後に引退予定だった。リツは指揮に選ばれてから、カラーガードの練習を欠かさなかったのに、パレード自体がなしになりそうだ。掌のマメが破れて絆創膏を貼っているから手が繋げないと笑ったリツを思い出す。旗、振り回してるだけに見えたけど「成功した」と喜んだり、「失敗した」って落ち込んだりしてたな。あいつの指揮のマーチングも発表の場がなくなるんだ。  今年の卒業生も卒業式が無くなって気の毒だったけど、思い出を作ることも許されず俺たちの時間は消えていく。  なんもできねえのかな、しこしことプリントしてるしか。    なんかしてえ。  そんな気持ちからだった。
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