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1.『車』『くるみ』『金』(0423)
mocoはmocoに乗っている。車の話。でも友人のくるみは絶対に助手席に乗らない。「私に運転させないなら後ろに乗る」って失礼なやつだ。
ただ彼女が文句を言わずに助手席に乗ることがある。運転ができないとき、つまりアルコールを飲んだとき。
今日も助手席を少し倒して「ごめん」と言う。
「気持ち悪い、窓開けていい?」
返事を聞かずにくるみは窓を開けた。
「吐くなら停めるよ」
mocoの言葉にくるみは首を振る。
「そこまでは大丈夫」
そしてくくっと笑った。
「儚いくらい」
続けて言って腕で目を押さえる。
「ダジャレかよ」
答えてmocoはハンドルを握り直し、川沿いの道へと進んだ。
ちょっとした寄り道の計画にくるみはすぐに気づいた。
「運転手さん、道がちがいまっせ」
腕で目をふさいだままでふざける。
「追加料金はお高くなりますから」
mocoも笑って返した。
川沿いの桜は満開を迎え、風が吹くと花弁が舞う。開けた窓から迷い込む花弁がくるみの腕に乗った。
くるみは視線だけを桜並木に移した。
「綺麗だね」
細い川沿いの道では停車はできない。ゆっくりと進むのはどの車も同じだ。みんな花舞を見ている。そして来年再び美しく咲くことを信じている。
ふいに吹いた風に舞う花弁に感嘆の溜息をついたくるみがリクライニングを起こした。
(fin)
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