石井先生

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石井先生

家では反抗期を迎えていたが、小学校6年生の時の学校生活は今思えば恵まれいた。学校では何故か感情を出す事がまだできていた。 6年生の時の担任の先生は、30代後半ぐらいの体格が良く恐持ての男性の担任、石井先生だった。 普段は優しいのだから、怒ると本当に怖い先生だった。 私達のクラスは、5年生からの持ち上がりで、ヤンチャで有名なクラスだった。 だから、怖い石井先生が担任になったのかも? ある日クラスで男子間で、いじめが始まり、それを知った石井先生は、烈火の如くクラス全員に怒った。 加担していなくても、見てみぬふりの奴は加害者。 つまり、クラスの全員が加害者な為、全員に怒ったのだ。 1時間め~5時間めまで、授業をせずに、自分達のやった事の振り返り、意見交換、先生の説教の時間となった。 先生の説教で今でも印象深い話がある。 先生の話に出てきた死んでしまった男の子は、私も知っている人だったというのもある。 ―先生のクラスの男の子T君は、いつも休み時間になると率先して元気に外で遊ぶ様な子供だった。 学校も大好きで皆勤賞だった。 だけど、ある日T君が急に背中が痛いと言い出した。 そしてその数日後、T君のお母さんから発熱の為の休みの連絡が入った。 先生は、あの元気なT君が珍しいな、と思いつつ風邪だろう...ぐらいに思っていたが、何日経っても登校して来ない。 心配になった先生は、T君のお母さんに様子を尋ねた。 すると、T君は入院する事になりました、と。 先生は、T君のお見舞いへ...。 あんなに元気だったT君に沢山の管が繋がれ、息苦しそうにしていて、痩せていた。 T君のお母さんと2人きりになった時、こう告げられた。 「背中に癌が見つかりまして...。もう長くないとお医者様から言われました。Tは知りません...。」 先生は唖然とした。 あんなに元気だったTが嘘だろ!? あんなに良い子がなんで!? 涙が止まらず、その日はそのまま帰った。 次の日から、先生は時間を見つけてはT君を励ます為にお見舞いに行った。 何事もない様にT君も先生も、他愛も無い話と学校の出来事を話した。 何回かそんな感じでお見舞いに行った帰りがけT君は先生に珍しく真顔で行った。 「僕、早くみんなに会いたいよ...。ドッジボールしたいよ。僕、退院できるかな?僕、もっと生きたいよ。」 先生は、涙が出そうなのを堪えて、思いきり作り笑いをして「退院できるに決まっているだろう!馬鹿な事をいうな!」と言って、足早に帰ったそうだ。 数日後、T君は亡くなった。 生きたくても生きられない人がいて なのに生きている人が簡単な気持ちで人を傷つけて、死に追いやる可能性のある、下劣ないじめをしている。お前達は何様なんだ? やっていなくても、知っていて止めない奴も同等だ。 人には、やっていい事と悪い事がある。 そんな事も6年生になっても分からないのか? 石井先生はそんな事を私達に問いただした。 先生に、私はさされた。 私は「勇気が無くて止められませんでした。すいませんでした。」と答えた。 そう、私は勇気が無かった。 自分がいじめられるのが怖くて止められなかった。 すると、石井先生はまた話始めた。 「勇気の扉」 人生には、色々な流れがあって、自分の人生は自分で作って行かなければならない。 いつも、簡単な道ばかりではない。 自分に無理そうだと思う事も、やらなければ進んでいけない物もある。 一歩一歩、しっかりとした足取りで進む。 すると、いくつかの扉があって、どの扉を開けるかを決めるのは自分、そしてその扉の鍵は誰でも心の中に持っている。 それは自分でさがさなければならない。 一生懸命探せば必ず見つかる。 見つけたら、余分な事を考えずに一気に開ければ良い。 私は、人生で何度か迷う事があった時、T君の話と、この勇気の扉の話を度々思い出して、ここまで歩んでこれた。 T君からは、人は急に死んでしまう事がある、人生いつ終わってもおかしくない有限の時間。という事を教えてもらった。 ちなみにこの石井先生。 私の心の変化にも気づいて、気に掛けてくれた。 親との関係がかなり悪化した時期に、学校では、卒業製作の彫刻刀を使った版画を作っていた。 私は自分では気づいていなかったが、版画を彫り始めた頃は丁寧に彫っていたのに、中盤に差し掛かった頃から徐々に彫り方が雑になったそうだ。 その様子を話してくれた上で「結子、家で何かあったのか?」と聞いてくれた。 ちょっとした変化も先生は気づいてくれた。 こんな私の事も気にかけてくれて、声をかけてくれた。 気遣ってくれる人が居る...私はそれだけで本当に嬉しかった。 先生には、大まかな事を話した。 心が少し楽になった。 後日、先生は私の両親を学校に呼び出し話してくれた。 体面を気にする両親には、多少堪えた様だったけど、家は相変わらず変わらなかった。 だけど、私はその時に気づいた。 居場所は外で自分で作れば良いと。
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