自分達が居るせいで・・・

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自分達が居るせいで・・・

私が小学生の頃はまだ個人情報漏洩が厳しくなかったので、学年が変わる度に連絡網という、緊急事態時にクラス内で電話連絡する順番が記載された用紙が配られていた。 そこには、私の名前と電話番号の他に両親の名前も記入されている。 当然、我が家の母親の名前の欄は空欄。 今でこそ、シングルマザーやシングルファザーは珍しくないが、私の子供時代は珍しく、ましてや田舎で話題も乏しいせいか、いじめられたり、からかわれたりする対象になった。 私も、同級生に何度かからかわれたり、親御さん同士でヒソヒソされたりもした。 その連絡網で、クラスで自分の母親だけ名前が空欄になっているを見る度に、悲しく惨めになっていたが、徐々に馴れた。 そんなある日、滅多に話さなくなっていた父から「今度、外でご飯を食べよう。会って欲しい人が居るんだ。」と言われた。 当日、車で父と私達姉妹はその人を迎えに行った。 どんな人が来るんだろう? ドキドキしながら、車の中で待っていると、優しく明るい感じの30代半ばの女性が父と一緒にやってきた。 鈴木さんという、学校の先生をしている人だった。 鈴木さんは、私達姉妹に明るい笑顔で「結子ちゃん、妹ちゃん、初めまして!どうぞよろしくね。」と言ってくれた。 そんな鈴木さんの様子に私達の緊張も薄れ、笑顔で挨拶をする事ができた。車の中で学校での話や好きなアイドルの話などできて、鈴木さんも楽しそうに笑って聞いてくれていた。 鈴木さんならお母さんになって欲しいと思った。 そして何よりも久しぶりに、父が楽しそうに話している姿を見て、私も嬉しくなった。 そんな感じで、鈴木さんと私達家族が何回か会った。ある日鈴木さんを送り届け、帰宅している途中に父が神妙な面持ちで私達に姉妹に、こう聞いてきた。 「鈴木さんが、お母さんになるのはどうだ?」 私と妹は、もちろん、すぐに賛成した。 これで、今度からはクラスの連絡網にお母さんの名前が自分の所にも入る! でも、鈴木さんとはこの日を最後に会う事は無かった...。 それから数週間鈴木さんと会わない日が続き、鈴木さんとの様子が気になり父に訪ねた。 父は、言いにくそうに、少し悲しいような悔しい様な表情になり、こう言った・・・。 「もう鈴木さんには会わないよ。結婚もしない。」 私は驚いて理由を尋ねた。 「鈴木さんね、子供が苦手なんだって・・・」 私は言葉を失って 悲しそうな、バツの悪そうな父の姿を見て「分かった。」としか言えなかった。 自分と妹が居るせいで、父は結婚できなかったのかも知れないと心の中で思った。
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