他愛もない奇跡

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「お金がないのが悩みっていうのはさ、この世にお金があるから、そう思うのよ」  彼女が言った。 「どういう意味?」  私は訊いた。 「だって、お金そのものがこの世に存在しなければさ、お金があるかないかなんて、気にするはずもないじゃない。最初から無いものを、欲しいとも思わないし、なくて困るとも思わないわけよ」と、彼女。 「それはそうかもしれないけど」と私。 「でもさ。そうすると、どうやって欲しいものを手に入れるの」 「それはさ」と彼女。  てっきり、「物々交換」とでも言うのかと思ったら、違った。 「欲しいものを『欲しい』と思ったとたんに、ポンと出てくるのよ。その欲しいものが」 「なんだ、それ」  私は苦笑してしまった。 「それじゃまるで、魔法じゃないか」 「そう。魔法なの」  彼女は意外にまじめな顔をして言った。
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