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なごり雪
ひだまり宿屋の朝、いや、この宿場町の朝は早い。
それはこの街の宿屋の主な客が来る時間が朝で旅立っていかれるのも朝だからだ。
いい迷惑だ、もうちょっとゆっくりして行かれないのか。
しゃあない、うちはしがないの中居だ。どうにもできない。
「雪、朝ですよ、起きなさい。朝食を食べ損ねてしまいますよ。」
っげ、女将だ!
「声に出てます。あなたも一応女性なんですからはしたない声を出さない。鳶さんはもう仕度し終わってますよ。」
「一応ってひっどー! これでもうちちゃんとした女の子だし!」
言い返しながら、いつもの着物に着替える。
まだ日は昇っていない。
春はあげぽよだとか学校で習った気がするが、共感する気になれない。
中居の着物は紺色が上品だがうちは好きでない。
雪女なら白装束と相場が決まっているし、そもそも窮屈な着物が苦手だ。
しかし、うちの旅館は中居は紺と決まっている。
だが、庭師の焦さんは深緑の着物をいつも着ている。夏でも暑苦しく見えないのが不思議だ。
最近は着物もすっと着ることができるようになった。
きた頃は全く着れなくて女将さんや旅館に人に手伝ってもらったっけ。
着物を着て、昔よりは長くなったがまだ微妙に結べない長さの髪をとかす。
支度が終わったので厨房に行った。
厨房には私以外の宿屋の従業員は揃っていた。
「おっはよーございます! 」
「おはよう、みんな揃いましたし今日の予定を話します。その間に皆さん朝食を取ってください。雪、香箱さんは私たちのために早くから仕込みを始めてるんです見習いなさい。」
「はーい。あ、今日はたけのこご飯なんだ!春ですねえ。」
というと、香箱さんは親指をたてグットサインをした。
最初に香箱さんを見た時はびっくりしたぞ!なんたって香箱さんは腕だけの妖怪なんだ! 怖いが豊かなボディランゲージ?と筆談で伝えてくれる。
「ンッン。では今日の予定です。
今日は高城 晶空様が起こしになります。
鳶さん雪さんは客室に浴衣の準備といつも通りの清掃をお願いします。
蕉さんは客室に新しい花をお願いします。
香箱さんはいつも通りの懐石料理をお願いします。」
あー、今日の女将は萌葱色なのか。
たしかに春にもってこいの色だ。でも、女将の白い肌と髪には劣ってしまう。
一緒に白装束を着てみたい。
「「はい。」」(はい! )
「雪さん、返事は! 」
「ひゃい、おひゃみ! (はい、女将! ) 」
「口にものを入れて話さない。くれぐれもその口調でお客様に話さないこと! さ、食べたら仕事に取り掛かりなさい。朝の鐘(9時ぐらい)にはお客様が来ます。」
うちは美味しいたけのこご飯とお漬物とお味噌汁をかきこんだ。朝は軽い方が良い。
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