なごり雪

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「あ、鳶さんちっす!今日は薄緑色の帯紐なんだー!きれー!」  鳶さんはうちの先輩の中居さんだ。うちと同じような紺色の着物を着ているが帯留めやちょっとしたものでおしゃれをしてて綺麗だ。見た目は30歳ぐらいでいつも後ろでまとめるひっつめ髪なのだが、座敷童だったりする。 そうは見えない。 「おはよう雪ちゃん。今日も元気ね、それにしても珍しいはね雪ちゃんが寝坊なんて。」 「珍しいかな?うちだったら結構ありそうじゃない? 」 「ふふふ、まあ、そうゆうことにしておきます。女将にこってり絞られていましたしね。」 上品に笑う鳶さんと一緒に男性用の大きめな浴衣と帯を用意して玄関の掃除から始める。先に入り口から始めれば多少時間がかかってもお客様に見えることはない。 「ところでいつも思うんだけど、掃除必要なくない? だっていつもめちゃ綺麗ですよ? 基本的な管理はこの建物が勝手にやるから別に良くないすか。」  そう、うちの宿屋は来るお客様によって形が変わる。 いつもは一人しか来ないから客室は一つで温泉はちょっと広めでしかない。 しかし、いっぱいのお客様が来る時は男女別に温泉を分けて、温泉も温度別になっていて、お部屋はいっぱい、そして宴会場まで作ってしまうのだ。 「そうゆうものではないは、建物一人で綺麗にできるところは限界があるし、掃除してもらった方がこの方も機嫌がいいのよ。」  この建物に取り憑いている鳶さんや香箱さんにはおぼろげながら建物の気持ちがわかるらしい。 「取り憑けるのってうらやましいなー。」 「あら、そうでもないわよ。取り憑くってことは縛られるってことだからね。一心同体。生きるのも死ぬのも宿主次第。自由な雪ちゃんがうらやましいわ。」 「そんなもんですかね。」 「そんなものよ。」
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