206人が本棚に入れています
本棚に追加
ハロウィン・パーティー
こんなに一度にカボチャを目にする機会は滅多にない。それが俺の感想だった。
毎年10月下旬、元町では「元町ハロウィン」というイベントが開催される。子どもたちがハロウィンの仮装をして歩く定番のイベントはもちろん、ドッグハロウィンという犬と一緒に歩くイベントも行われてにぎわう(らしい。去年まで元町に住んでなかったから知らないけれど)。
というわけで、いまの元町ショッピングストリートはカボチャはもちろん、オレンジや紫の風船、飾りなどでわちゃわちゃしていた。いつもの落ち着いた「大人」の雰囲気漂う街並みとはまるで違う光景だ。
ちなみに、源神社でもハロウィンのイベントを行う。
宮司──普通の会社で言うところの社長──である兄貴が「地域貢献のため、元町の人たちと一緒にハロウィンを盛り上げよう」と言い出したのだ。
「兄貴に言うのもなんだけど、神道とハロウィンは無関係だろう。便乗して一儲けしようとしているだけじゃないのか」
「そんな発想を抱くなんて心が澱んでいるね、壮馬は。僕はただ、普段は元町に来ない子どもたちに源神社のことを知ってもらうチャンスと思っているだけだ。お札やお守りにお金を使ってくれるだろうしね」
「それを『便乗して一儲け』と言わずしてなんと言うんだ!」
俺のツッコミを物ともせず、兄貴の発案によって当日は、境内の一部をハロウィン仕様にして、子どもたちにお菓子をあげることになった──神職や巫女(ついでに雑用係の俺)が仮装して。
神社なのにそこまでハロウィンを満喫していいのか、という疑問が消せないが、誰がどんな仮装をするのか、今夜打ち合わすることになっている。
いま俺が雫と一緒に元町ショッピングストリートを歩いているのは、ハロウィンとは関係なく、花屋で榊を買うためだ。榊自体は境内に自生しているのだが、関東に自生していない種類は花屋に仕入れてもらっている。
ちなみに、俺たちがお世話になっている花屋〈あかり〉は店主がなかなか変わった男性なのだが……それはまた別のお話。
最初のコメントを投稿しよう!