ハロウィン・パーティー

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〈あかり〉からの帰り道。 「本当にやるんですかね、仮装」と声をかけようとして、雫が隣にいないことに気づいた。  振り返ると、雫はアクセサリー屋の前で足をとめていた。ショーウインドウを見つめている、と思ったら、首を動かし、今度は俺の方を見つめ始める。  氷塊のような瞳で、ただただじっと。 「どうかしました?」  俺が訊ねると、雫の薄い肩が跳ね上がった。 「なんでもありません」  雫は早口で答えるなり、源神社の方に足早に歩いていく。袴は歩きにくいのに、それをまったく感じさせない足取りだ。本当にすごいな、この子。俺なんか半年近く穿いていても、未だ転びそうになるのに……いや、それよりも。  俺は雫の後は追わず、アクセサリー屋の前に戻った。ショーウインドウを見る。  雫が見ていたと思われるのは、真紅の宝石が嵌められたイヤリングだった。  宝石自体は小さいが加工が凝っていて、水滴のような形をしている。一見ルビーのようだが、レプリカなのか不純物が混じっているのか、値段は高くない。  神社で働く神職や巫女は、過度な装飾をしてはいけない決まりだ。眼鏡や腕時計ですら、シンプルなデザインでなければいけない。当然、雫も奉務中はアクセサリーをつけていない。  琴子(ことこ)さんは休日になると少しおしゃれをするが、雫の場合は休みの日、たまに一緒に出かけるときだって化粧すらほとんどしない。  なのに、このイヤリングを見つめていた。しかも俺の方を見た。ということは。  ──もしかして俺に買ってほしいんじゃ? でも、すなおになれないんじゃ?  ごくり、と喉が鳴る。  生憎、いまは持ち合わせがない。今日の奉務が終わってからまた来て、残っていたら運命だと思って買おう。それがいいな。うん、そうしよう。  そう考える頭とは裏腹に、俺の身体は勝手に動いて店のドアを開け、気がつけば店員にこう言っていた。 「後で買いにくるから、取り置きをお願いできますか?」
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