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動かない雫に、唇をさらに近づける。
雫は依然として動かない。そのまま俺の唇が雫の──。
「壮馬、入っていい?」
廊下から兄貴の声が飛んできて、俺と雫は同時に飛びのいた。「どうぞ」と上ずりかけた声で返すと、襖が開く。
「明日の朝の神饌のことなんだけど──どうした?」
俺と雫が背を向け合って座っているからだろう、兄貴が怪訝そうに首を傾げる。
「や……やっぱり自分でつけますね。おやすみなさい」
雫は俺の手から奪うようにイヤリングをつかむと、そのままの勢いで部屋から出ていった。
「雫ちゃん、なにかあったの? 『自分でつける』ってなにを?」
首を傾げた兄貴は、怪訝そうなままだ。
いや、本当に怪訝なのか? わかっててやってないか? でも兄貴は、俺と雫をくっつけたがっていて、「応援する」と言ってくれているし……でもでも、「からかうことと応援することは矛盾しない」とも言ってるし……だめだ、わからない。わからないが、確かなことが一つ。
「これまでで最大のチャンスだったのに、なんてことしてくれたんだ!」
*
でもハロウィンの日。
魔女っ子の仮装をした雫に真紅のイヤリングはとても似合っていて。俺の口許は自然とほころんで。
またなにかプレゼントしたい、と思った。
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