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巫女さんの前髪
※各エピソードは独立しているので、気になった話からお読みください。
巫女の仕事は、優雅なイメージとは裏腹に肉体労働だ。日々、境内を隅々まで掃除しなくてはならないし、神職が祈禱に出かけるときは細々とした神具を用意することもある。七五三でやんちゃな子どもが来たら、髪を引っ張られるわ、緋袴をつかまれるわで大わらわだ。
雑用係である俺は、雫のこうした肉体労働を手伝っている。体格がよくて体力は人並み以上にあるので、役に立っているという自負はある。
ただし、俺には手伝いようがない仕事もある。
その一つが「巫女と写真を撮りたがる参拝者に応対すること」だ。
特に外国人観光客は、巫女さんと一緒に写真を撮りたがる。当然、「参拝者に愛嬌を振り撒くのは巫女の務め」というモットーを大まじめに実践する雫は、笑顔で写真撮影を受けている。
ただし、笑顔はぎこちない。
「ハズカシクナイ、ハズカシクナイ」
片言の日本語で話しかける白人男性に「そう言われても……」と返す雫の笑顔は、ぎこちないままだ。白人男性は肩をすくめたが、むしろ喜んでいる様子でスマホを掲げ、雫と並んで自撮りした。
雫は、滅多にお目にかかれないような美少女なので、こんな風に写真撮影を求められることが多い。それに応じはするが、毎回こんな笑顔だ。
明らかに、緊張している。
「プリティ。マエガミ、ベリープリティ」
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