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神さまに顔を見せるため、巫女は前髪を上げて、おでこを出すことが原則。信心深い雫なら、それに従っておでこを出しそうなものなのに。
「実家のしきたりに従っているからです」
雫の実家は、札幌にある由緒正しき神社だと聞いている。
「実家の神社では、未熟な巫女はおでこを出してはいけないことになっています。そんな巫女が顔を見せることは、神さまに失礼だからです。そういう環境で育ってきたから、わたしもおでこを出して奉務することには抵抗があります」
「雫さんは未熟じゃない。完璧な巫女じゃないですか」
「どこがです?」
勢いよく返されて、すぐには言葉が出なかった。
「どこがって……例えば掃除です。境内も社殿も、隅々まできれいにしています」
「常に清浄であることは、神社の基本中の基本。そんなことは当たり前です」
『カリスマ主婦のお掃除大作戦』に類する本を何冊も購入し、付箋だらけにして実践することが「当たり前」とは思えないが。
「なら、参拝者への応対はどうです?」
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