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海に行くのなら、誰しも晴れることを望むだろう。でも、
「今日は曇っていてよかった」
後部座席から飛んできた兄貴の言葉に、俺は「そうですね」と心の底から同意した。握ったハンドルも、心なしか軽い。
俺たちは商売繁盛の祈願依頼を受け、Q海岸に新規開店した「海の家」に向かっている。神職の兄貴はご祈禱を、巫女の雫はその補助を担当する。
雑用係の俺は、荷物持ちで同行だ。
三人とも神社にいるときと同じく、白衣や袴を纏っている。これが結構暑い。特に兄貴は、祈禱する前に白衣の上からさらになにやら羽織ったり、頭に被ったりしないといけないので大変だ。駐車場が目的地の傍にあるならまだいいが、生憎、少し歩かなくてはいけないらしい。
兄貴の「曇っていてよかった」発言は、そうした事情を踏まえてのものである。
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