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ちっちゃい巫女は壮馬がお好き?
「こんなもんかな」
息をつきながら、俺は雑巾をたたんだ。部屋の掃除を終えたところである。男の部屋にしては片づいている方だとは思うが、普段は忙しくてなかなか掃除できないのだ。
今日は一日休み。せっかく天気もいいし、これからどこかに出かけるつもりだ……一人で。
いつもは、(兄貴の策略で)雫と休みが重なることが多い。
でも今日の雫には、小学生に巫女舞を教えるという仕事が入っている。
日本のほとんどの神社は、神職が常駐していない無人神社だ。当然、巫女もいない。それでも祭事の日には、神さまに巫女舞を奉納する神社もある。そういうときは、近隣の神社から巫女を呼ぶか、地元の子どもに巫女舞をお願いする(稚児舞と言うらしい)。
雫のところに来るのは、後者に該当する子。東横線の白楽駅近くにある無人神社の祭事で巫女舞を奉納する。近くに大きな神社があるのに、その子が「源神社の人に教えてほしい」と指名してきたらしい。
源神社は、兄貴が宮司になってから安産祈願のお守りや恋愛パワースポットで話題になっているし、YouTubeにアップされた雫の巫女舞動画もかなりの再生回数をたたき出している。その影響に違いない。
ちなみに「一緒に教えましょうか?」と冗談半分で言ってみたら、雫から「壮馬さんに教えられることがあるのですか?」と嫌味でも皮肉でもない、それはそれは真剣な顔つきで訊き返され、なにも言えなかった。
というわけで、今日の俺はやることがない。たまには一人もいいか、と伸びをしたところで雫の声がした。
「壮馬さん、よろしいでしょうか」
「どうぞ」と応じると襖が開いた。巫女装束の雫が、廊下に正座している。この時間はもう、小学生に巫女舞を教えているはずなのに。
「どうしたんですか」
「一緒に来てもらえませんか。小学生の女の子が、壮馬さんがいないなら『巫女舞はしない』と言ってるんです」
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