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──わたしは壮馬さんと結婚してないし、それ以前におつき合いもしていません。
唐突すぎる告白に、すぐには言葉が出てこない。風花ちゃんもそうだったに違いないが、我に返るのは俺より早かった。
「噓をついたってことね。つき合ってもいないということは、手を握ったこともないのね!」
「それはあります」
「はあ? つき合ってもないのになんで?」
「参拝者さまのため、壮馬さんと恋人のふりをする必要に駆られたからです。それから、抱き寄せられたことも──」
「いろいろあるってことだよ!」
真面目な顔してなにをしゃべってるんだ。
不満そうに目を眇める風花ちゃんには気づかないふりをして、俺は雫に言った。
「本当のことを打ち明けるつもりなら、事前に教えておいてください」
「わざわざ言わなくても、壮馬さんならわかってくれているものだと」
そんな風に両目を大きくされても困る。
……うれしいけど。
風花ちゃんが、畳に両手をついて身を乗り出す。
「なんだかよくわからないけど、噓をついた理由はなんとなくわかる。私が、壮馬さん目当てで稽古に来たと思ってたんでしょう。それで巫女舞に集中できないと思って、あきらめさせようとしたんでしょう。まあ、私は壮馬さんのことなんてどうでもいいんだけどね!」
勢いよく捲し立てた風花ちゃんだったが、不意に首を傾げた。
「でも、どうして今日になって噓だと言ったの?」
「風花ちゃんが、巫女舞に真剣になったからです」
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