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海が見えてきた。水面の青は、曇り空を映してくすんでいるが、それでもかなりの人たちが泳いでいる。太陽は出ていなくても、連日の猛暑で今日も蒸し暑いからだろう。
「海なんて、しばらく行ってないなあ。壮馬と雫ちゃんはどうなの? 明日は休みだし、たまには二人で出かけてきたら?」
兄貴がおもしろがるように言った。この男は、若くして伝統ある源神社の宮司──一般企業で言うところの社長──になったくせに、普段の言動はヘリウムガス並みに軽いのだ。しかも、俺と雫をくっつけようとしているのだから性質が悪い。
それは俺だって、まあ、雫と海に行きたくないわけではない。でも、そんなデートみたいなことをいきなりできるわけがない。「そう言われましても」と、俺がお茶を濁す寸前だった。
「行きません、恥ずかしいです!」
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