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あなたとはつき合えません──この場合の「あなた」は俺のこと。
……振られたのか、俺?
「壮馬さんはその気になっていたと思う。私って、わかりやすいツンデレだから」
風花ちゃんが頰を赤らめる……って、自覚があったのか。あと、小学生相手にその気になったことは一秒もない。
「確かに最初は、壮馬さん目当てだった。それは認める。でもね、巫女舞を教えてもらっているうちに」
言葉を切った風花ちゃんは、勢いよく抱きついた──雫に。
「雫さんを好きになっちゃったの!」
自分より大きな風花ちゃんに抱きつかれても、雫の身体は微塵も動かなかった。さすが合気道をやっていただけあって、体幹がしっかりしている。
でも表情の方は、氷塊の瞳が真ん丸になっていた。
「え? で、でも……」
よほど動揺しているのか、珍しく口ごもっている。
「あなたは巫女舞の醍醐味を知って真剣になったのでは……」
「もちろんだよ。でも、それだけじゃない!」
雫を抱きしめる風花ちゃんの両腕に、力がこもる。
「凛々しくて、かわいくて、巫女舞ができて。大好き、雫姉さま!」
雫の双眸が、この上ないほど大きく開かれた。
俺じゃなくて雫……。しかも雫姉さま……。
ははは、と砂漠より乾いた笑い声を上げて、俺はふらふら歩き出す。
「壮馬さん、どこに行くんですか? 助けてください!」
雫のこんな焦った声を聞くのは初めてかもしれない。でも、
「すみません。なにもしてないけど、今回はさすがに疲れたんで……」
「壮馬さん? 待って!」
「雫姉さまぁ!!」
背後から雫と風花ちゃんの声が聞こえてきたけれど、振り返る気にはなれなかった。
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