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「わたしは泳げないんです。カナヅチなんです。水が苦手なんです。入った瞬間に溺れてしまうんです。そのことを知られたくなくて『恥ずかしい』と言ったんです。それだけです。それ以上の理由はありません。どうかここだけの話にしてください。お願いします」
早口で一気に捲し立てて、雫はサイドガラスの方に勢いよく顔を背けた。
……一言で言えば「信用できない」。
雫は難易度の高い巫女舞も美しく舞うし、飲み込みも早い。運動神経抜群であることは間違いない。
なのに「泳げない」なんて。
もちろん、運動神経がよくても泳げない人はいるだろうし、雫の場合は「北海道出身だから泳ぐ機会が少なかった」という事情があるのかもしれない。でも、それなら「恥ずかしい」ことはないし、頰を赤くしたりするだろうか? そもそも、水に「入った瞬間に溺れてしまう」なんてありえるのか?
なにかを隠そうとしているようにしか見えない。「泳げない」以外で恥ずかしい理由となると……。
ひょっとして、水着になるのが恥ずかしいのでは?
17歳と言えばなにかとお年ごろだし、私服は、肌の露出が少ないものが多い雫のことだ。「水着姿を見られるのが恥ずかしい」という可能性は充分ありうる。
普段は巫女装束の雫が、水着……きっと脚は白くて細くて……腕だって……それから……。
「運転に集中してね」
兄貴に言われて助手席の雫を見つめてしまっていることに気づき、慌てて前を向いた。
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