雫ちゃんの写真を撮ろう

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「私もまた撮らせてもらうよ」  カメラのバッテリーを交換した琴子さんが、俺の隣に来てシャッターを押す。その瞬間、雫は「天使降臨」と命名したくなるような、かわいすぎる微笑みを浮かべた。琴子さんがシャッターを押している間、雫はその表情を崩さない。  ──チャンスだ。  俺がiPhoneを構えると、雫は笑顔のまま、でもぴしゃりと言った。 「いまは撮らないでください」  氷の鞭で頰をぶたれたら、こんな気分になるのかもしれない。俺がなにも言えないでいる間に、琴子さんは笑顔の雫を撮り続ける。 「じゃあ、また(そう)ちゃんがどうぞ」  琴子さんが後ろに下がり、入れ替わりに俺が前に出る。  同時に雫の表情から、やっぱり微笑みが消えた。 「……なぜ、俺が写真を撮るときは笑顔が消えるんですか」  強張る顔を必死にやわらげて訊ねる俺に、雫は当たり前のように答える。 「壮馬さんにレンズを向けられると、笑う気になれないからです」  さらりとひどいことを言ってないか?  俺の背後で兄貴と琴子さんが笑いを噛み殺していることが、振り返らなくてもわかった。  ……こんなことを言ったら、後になってきっと兄貴たちにからかわれる。未来永劫ネタにされることだってありうる。それでもこらえ切れなくて、俺は意を決して言った。 「俺は、笑顔の雫さんを撮りたいんです!」
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