うちの巫女さんは泳げない?

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*  Q海岸の駐車場に車をとめた。砂浜よりも標高が少し高い。海沿いに弧を描くように緩い下り坂になっていて、その先に目指す「海の家」があった。  駐車場から見下ろす海は沖。海面からの高さは3、4メートルといったところか。覗き見ると水深がそれなりにあり、飛び込もうと飛び込めそうだった。  下り坂を歩いて「海の家(もくてきち)」に向かう。雫は紙垂(神社でよく目にする、ひらひらした白い紙のことだ)を結った玉串(たまぐし)を、俺はそれをお供えするための台・玉串案(たまぐしあん)と、神さまに捧げる食べ物を載せる三方(さんぼう)を持っている。兄貴の手には、お祓いに使う紙垂が大量についた棒「大麻(おおあさ)」。神社の祈禱というのは、こんな風になにかと道具を使うのだ。  この後で俺は一旦車に戻り、神さまに捧げる本日の果物や酒を運ばなくてはならない。  少し歩いただけで、首筋に汗が噴き出した。晴れていたら、この程度では済まなかっただろう。兄貴の言うとおり曇っていてよかった、と改めて思いながら、人混みを縫って歩く。白衣や袴を着込んだ俺たちに、行き交う人々の視線が自然と集まる──いや、正確に言おう。 「女性の視線は兄貴に、男性の視線は雫に集まる」。  兄貴は細面と切れ長の目が特徴的な美形で、普段から「栄達さんに祈禱してほしい!」という参拝者(男女比3:7)が押しかけてくるほどだ。雫の容姿も、先ほど述べたとおり。一方で俺は、体格(ガタイ)がいいだけ。視線の差が生まれるのは当然だし、慣れているのでなんとも思わない。  雫に集まる視線には、少しもやもやするが。  雫を見つめる人の中には、こんがり日焼けして、全身の筋肉が引き締まった若い男性もいた。口をぽかんと開けて完全に見惚れているので、一際目立つ。海水パンツには赤く派手な文字で「RESCUE」とある。ライフセーバーのようだ。  随分ぼんやりしているけれど、不測の事態が起こったとき大丈夫か?
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