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兄貴は「雫ちゃんを僕の義妹にするために、壮馬にがんばってもらわねば!」と妙に張り切っていて、俺たちをいつも一緒に奉務させている。今回の人形劇も、俺と雫の距離を近づけるための作戦に違いない。
俺だって雫とつき合えたらどんなにいいだろう……と思いつつ、告白したくてもできない毎日を送っているので、雫と距離が近づくこと自体はありがたい。とはいえ、
「用事がないなら、今年も宮司と琴子さんがやった方がいいんじゃないですか。だって、ほら……」
あまおとあまこを卓袱台に戻す兄貴に、口ごもりながら目で伝える。
──雫さんに人形劇なんてできると思うか? いくら『参拝者に愛嬌を振り撒くのが巫女の務め』がモットーでも、本性は愛想笑い一つ浮かべない、氷の巫女なんだぞ。
向いてない。雫に人形劇なんて絶対向いてない。それも、幼稚園児相手になんて。
〈どうしてだい? 私たちでやればいいじゃないか、壮馬クン!〉
隣から、やけに軽快な、甲高いつくり声が飛んできた……って、いま俺の隣にいるのは。
顔を向けると、雫が左手に嵌めたあまこを俺に向けていた。巫女装束と人形の組み合わせが、衝動的に抱きしめたくなるほどかわいい。生きててよかった。これだけで残りの人生を幸せに生きていけそう……いや、落ち着け。そんなことより。
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