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考えるまでもなく、いまの言葉は雫が言ったものだ。でも声音がいつもと違いすぎるし、「どうしてだい」とか「壮馬クン」とか、およそ雫の語彙にはなさそうなことを口にした……。
どんな表情をしていいかわからないでいると、雫はあまこの口を動かしながら言った。
「こういう人形は初めて使いますが、楽しいですね。いつもと違う自分になれる気がします」
顔つきが冷え冷えとしているのでわかりづらいが、声は心なしか弾んでいる。そうか、楽しいのか。雫に人形劇なんて向いてないと思ったけれど、そういうことなら……。
顔を戻すと、兄貴は頷いた。
「脚本は、毎年同じものを使い回してる。難しくないよ」
卓袱台に、脚本を表示させたiPadが置かれる。雫と二人でそれを覗き込む。
「あまこ(ピンクの方)が神社に関するクイズを出す→あまお(黄色い方)がわからなくて、幼稚園児に助けを求める→あまお、幼稚園児の答えに合わせて適当に反応する→あまこが正解を言う」が基本的な流れだった。クイズの内容は、鳥居をくぐる前にはどうするか(答え・礼をする)とか、お賽銭を入れた後はどうするか(答え・二拝二拍手一拝する)とか、基本的なものばかりだ。
上演時間は10分ほどだし、これなら俺も雫も問題なく……。
「やりましょう、壮馬さん」
「そうですね」
兄貴が満面の笑みを浮かべるのが、視界の片隅に見えた。
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